ヨンウニムのインタビュー記事も、まだ2つばかりご紹介したいものが残っていますが、チョ・グニョン監督のインタビュー記事にも、感動的なものが結構ありますので、ちょっとここらで紹介しておきたいと思います。
今週は、1日に1回でも上映している映画館があるのか? というぐらい、寂しい韓国劇場街の状況です。こんなに素晴らしい映画が、儲かりそうにないと判断されて劇場から締め出されるなんて! 怒りを通り越し、悲しくてなりません。たとえば美大の学生とか、心理学を学ぼうという若者とかの教科書に使ってほしいぐらいの作品なのに。
(そういえば 『パパ』 は、小学生か中学生かが団体観覧してましたね)
日本のバイヤーは、興行成績なんてものに振り回されず、ぜひとも買い付けてきて日本で上映&DVD発売を敢行してもらいたいです。(こういう状況なので、制作会社もまさか高値をふっかけてはこないでしょうし)
海外の視聴者に熱狂的な支持を受け、後日韓国で再上映される!なんて、想像しただけでもワクワクするじゃないですか?!
韓国映画は、芸術映画の分野でも世界に通用するってことを、韓国映画業界のみなさまにわかっていただきたいと切に願います。。。
海外映画祭8冠王? 賞を取るほど配給会社が決まりません
映画 『26年』(2012年)で300万人の観客を動員したチョ・グニョン監督が、『春』 をひっさげて帰ってきた。
前作で、敏感な素材を大衆化することを試みたとすれば、今回の作品は、刺激的にもなり得る素材を限りなく美しく紡ぎ出した。
『春』 は、生きる気力を失った韓国最高の彫刻家ジュング、彼に最後まで生きる意志を取り戻させようとする妻ジョンスク、貧困と暴力にあえぎ希望を失っていたところにヌードモデルの誘いを受けるミンギョン、3人に訪れた人生で最も美しい瞬間についての物語だ。
海外の映画祭で8冠王。賞という賞はすべて取った。
目が離せなくなる圧倒的な映像美、パク・ヨンウ、キム・ソヒョン、イ・ユヨンの心を揺さぶる熱演、人生と芸術について考えさせられる映画の真摯な態度は観客にも好評を得ている。
しかし、『春』 のスクリーン数はたったの7つ。上映している劇場があまりに少ないため、観たくても観られない状況だ。このことについて監督は、「海外の映画祭で受賞した作品ほど配給会社がつきにくいんです」と語った。
「アリゾナ国際映画祭で最優秀作品賞を受けたとき、配給会社はむしろ困惑していました。IPTVすらダメでしたね。劇場でこの作品を上映できるだろうかと心配していたとき、サンタバーバラ映画祭のワールド・プレミアに出品すれば上映のチャンスが得られると聞いたんです。その代り、カンヌ映画祭やベルリン映画祭には出せなくなります。それでも、劇場で上映してもらえる!ただそれが嬉しくて、サンタバーバラに出品しました。母も連れて行きました。ここで観てもらわなければ、大スクリーンで観てもらうチャンスはないかもしれないと思って」
以下は、チョ・グニョン監督との一問一答
-出来上がったものだけ見ると、製作費が相当かかったように思われるが
まったく。制作会社が製作費を公開したがらないでしょう(笑) 純製作費は8億ウォン。僕はセットが好きじゃないんです。まったくの無駄遣いじゃないですか。ジュングのアトリエだけセットで、後は実在する家屋です。25テイク撮影しましたが、よほど問題がなければ最初のカットを使いました。水彩画みたいな映画でしょ。
-申し訳ない話ですが、彫刻家とヌードモデルが登場すると聞いて、ありきたりの不倫映画かと思いました。
役者たちも最初は警戒してましたよ。「本当にこのシナリオどおり撮影してくれますか?」という目をしてた。最近の韓国映画は半分がマフィアもので、半分が刑事ものじゃないですか。それが彫刻家だなんて。そこへもってきて、ヌードモデルが登場するにも関わらず、ベッドシーンも不倫もないシナリオなんて、そりゃあ疑うでしょう。シナリオにはなくても、いざ現場に行ってみたら突然ベッドシーンの撮影が始まる、なんてのもよくあることです。
-キム・ソヒョンの変身ぶりが新鮮でした。どんな表情を引き出そうとされましたか。
家にあったテレビを棄てて20年以上になります。役者に対する先入観がないんですよ。新しい顔を引き出すというより、方向を示してやる方です。ジョンスク役にソヒョンさんをキャスティングしてから、彼女の出演ドラマを見てみました。『妻の誘惑』 のいくつかのシーンを見ました。人は追い詰められることもあれば声を荒らげるときもある、落ち着いているときもあるでしょう。その中で、『妻の誘惑』 では、声を張り上げているところばかり使ったようです。ソヒョンさんはじつに演技の上手い役者ですよ。
-イ・ユヨンの全裸シーンが話題を呼んでいます。演出者としては、リラックスして撮影に臨める雰囲気作りが大切だったと思いますが
とくに僕が作り上げなくても、現場の雰囲気がとてもリラックスできるものでした。みな一緒に現場で食事をし、自分の登場シーンがなくても現場に来て遊んでいましたから。ユヨンさんも、スタッフや他の俳優がみな先輩で兄姉のようでしたから、気楽にしてましたよ。一般的にベッドシーンを撮影するときは最小限のスタッフだけを残して他はみな外に出てしまうものですが、僕の場合は逆です。そんなふうに雰囲気作りをやると、かえって役者が緊張する。『春』 はいやらしかったり情事の場面がある映画ではないことがユヨンさんにもよくわかっていたから、リラックスして撮れましたよ。
-海外の映画祭で受けた、印象深い評は?
「本当に韓国ってこんなに美しいの?」「韓国の民族衣装はとてもきれい」という言葉をたくさん聞きました。また、1960年代に、実際にあんな家庭内暴力があったのかと聞いてくる人もいましたね。
-監督ご本人と、パク・ヨンウ、キム・ソヒョン、みなスランプに陥っていた時期に 『春』 に出会ったと聞きました
映画 『後宮』 の撮影が終わって、これ以上美術監督はやらないと決めました。プライドも傷つくし生計も成り立たない。これ以上歳を取る前に違うことをしようと決心したとき、『26年』 で監督デビューしました。だれかメガホンを取らなければ映画が霧散してしまう状況でしたから。運良く最初の作品から、大企業の言いなりにならずに制作できました。
-美術監督をやめようと思われたきっかけは?
テレビ業界は、進むべき道を進んでいます。韓流がその例です。映画は、方向を見失っているように思うのです。手負いの獅子が迷子になったような感覚です。ベテランスタッフが、今の忠武路にはいません。みな中国へ行ってしまった。俳優のギャラは上がってきましたが、スタッフの給与は20年前と変わっていない。1700万人を動員した映画が生まれたというけれど、スタッフの待遇は依然として同じです。昔は、「僕がやっているのは芸術だ」という信念があったけれど、今はそういうものもなくなった。大企業の資本が入ってきてから生産効率を極大化する、マニュアル化された映画ばかり作られている。映画が一種の公式となってしまった。
-そういう脈絡から、『春』 はどんな意味をもっていますか?
もう少し時間が経てばわかるような気がします。自分の情緒が許容される物語、自分が得意なことをしただけです。『春』 は、映画と芸術をどうすれば退屈させずに観客と共感できるか、悩んだ末に出来上がった映画です。1950~60年代に生まれた映画文法の中で、たんにロングテイクやジャンプカットを多用すれば、それが芸術映画だと思っている人たちがいる。僕はそれを使わなかった。『春』 を観ていただければわかりますが、カットが非常に早い。観客にあくびをさせたくなかった。
(訳文文責:ハギ)



