上映当時、映画館で無料配布された冊子!だそうで、インタビュー記事ではないのですが極希少な資料です。せっかくのHYOJUさんのご厚意、みなさんご一緒に、ありがたく拝見しましょう♪
30歳までやったことのない男の、甘く殺伐とした恋愛談
♪他人という意味のナム(남)から、点ひとつ取るとニム(님)=愛しい彼になって つきあった人も
ニムという文字に点をひとつ書き加えれば、また元の他人に戻る 冗句みたいな人生~♪
歌手キム・ミョンエの♪再び他人♪は、両極端な状態に置かれる恋愛の属性を絶妙な歌詞で言い当てている。恋愛とは、そのようにいきなりやってきて、冷めるときもまた突然だ。
相手の気持ちを真実だと信じて楽園にいるようなファンタジーを夢見ていても、嘘だと分かった瞬間に愛情のリビドーが怒りに変わる。おかげで恋愛には、常に張りつめた緊張感が必要だ。
相手の気持ちの真偽を見極めようという緊張、片や嘘がばれないようにという緊張、はたから見れば”甘い”表情を作っていても心の中では”殺伐”と目を釣り上げていなければならないのが、まさに恋に落ちた彼らのジレンマだ。
『甘く、殺伐とした恋人』は、予測不可能な恋愛であるほどラストを予想するのが難しいと思われる映画だ。30になるまで一度も恋愛を経験したことのないデウ(パク・ヨンウ)は、”恋愛無用論”を唱えて自分の立場を正当化しようとする男。
しかし、30歳を超えたとたん周囲のカップルが気になりはじめ、そのうえベッドを動かしたときに痛めた腰のせいで襲ってきた侘しさは、デウを一層身もだえさせるのだった。
そしてついに”恋人”探しを始めたデウは、下の階に越してきた知的で独特な雰囲気を持つミナ(チェ・ガンヒ)と、成り行きでデートすることになり、二人は熱烈な恋に落ちてゆく。
ところが、恋愛の”楽しさ”も束の間。趣味は読書で美術を学んでいるというミナが、ドストエフスキーの『罪と罰』も、画家モンドリアンも知らないと言うのを聞いて、デウは彼女を疑い始める。
知的な彼女の雰囲気にまるで似合わないルームメイトや、裸で彼女の部屋にいる昔の恋人、おまけに重そうなスーツケースを引きずって外出した日には、例外なく泥だらけになって戻ってくる彼女の姿はやはり怪しい。
その上彼女の本名は、イ・ミナではなくイ・ミジャだったなんて!!
はたして彼女の正体は、甘ったるいのか殺伐なのか?
甘いユーモアと殺伐としたミステリーの間を縦横無尽に横断する荒唐無稽な恋愛談に「それで、恋愛ってのは甘いのか?殺伐なのか?」という二分法的質問はふさわしくないように思われる。
殺人事件が録画されたテープを探すため、手当たり次第に映画のビデオを見続けた殺人犯が、映画監督になろうと決意するに至る中編『あまりにたくさん見た男』で2000年の富川ファンタスティック映画祭の話題を集めたソン・ジェゴン監督は、前作同様『甘く、殺伐とした恋人』においても複数のジャンルを混在させている。
よくあるロマンチックコメディのように”恋人作りの騒動”で始まるこの映画は、ミステリー、スリラー、猟奇ものへと展開し、そこに切ないロマンスまで入れ込んである。アルフレッド・ヒッチコックをこよなく愛し尊敬するソン・ジェゴン監督は、ストーリー展開を予想しようとする観客とゲームを楽しむように、さまざまなマクガフィンまで潜ませている。
そして、このハイブリッドジャンル映画をさらに掴みどころのない作品に作り上げたパク・ヨンウ、チェ・ガンヒ。二人の独特な雰囲気も忘れてはならない。
パク・ヨンウ演じるファン・デウは、ロマンティックでもなく、時にはシニカルで神経質な一面を見せる男性。『血の涙』で鋭いカイスマを披露した後、『ナンパの定石』では突飛を通り越して哀れと言えるほどのストーカーに扮したパク・ヨンウの姿が混ぜ合わさるに十分だ。
『甘いあんぱん』『別れに対処する私たちの姿勢』他のドラマで、独特な話し方と可愛いけれどちょっと焦点のズレている魅力を見せたチェ・ガンヒもまた、玉葱の皮むきのように、剥けば剥くほど正体不明な女性イ・ミナに、これほどの適役はいないと思わせる。
奇妙な魅力を持つ二人の俳優が織りなす奇妙なラブストーリー。外には”甘い”表情を見せながら、内心”殺伐”とした目で見届けねばなるまい?
甘く殺伐とした物語の誕生秘話
ソン・ジェゴン監督は、最初”人類救援”に関するシナリオを書いていた。
ひと月の間連絡を絶ち、(朝鮮半島の)西海岸の一角に隠れて執筆に邁進していた彼は、その映画がドストエフスキー的な作品になると気づき、ただ一つの問題はタルコフスキーを引用するかどうかである、と考えるほど、その映画に確信をもっていたという。
しかし一か月後、ソウルに戻って溜まったメールを確認した監督は、恋人からの別れの通告を受け取った。
失恋の痛手から立ち直ろうとしてなのか? 彼は再び西海岸に出かけ人類救援の物語はひとまず置いて『甘く、殺伐とした恋人』を書き始めたのだ。
”百冊の偉大な文学作品を読んでご覧なさい。彼や彼女から届いたメールの一行にさえ勝るものですか。もう一度、百冊の本を見てご覧なさい。愛について扱っていない作品がいくつあるか”
おそらくその瞬間、ソン・ジェゴン監督は”人類救援”よりももっと偉大なものが”愛”であることに気づいたのだろう。
甘く、殺伐としたポスター
「彼女の特別な料理が始まる!」いったいどんな料理を作ろうというのか。知りようもないが、料理の材料は冷蔵庫の中に閉じ込められたパク・ヨンウのようだ。
それぞれ、『親切なクムジャさん』のイ・ヨンエと、『甘い人生』のイ・ビョンホンをパロディーしたポスターで関心を集めた『甘く、殺伐とした恋人』は、第2弾のポスターで二人が甘ったるいばかりの関係ではないことをうかがわせる。
ピンクのゴム手袋をはめた手で食材を鷲づかみにし、もう片方の手には今にも振り下ろされようとしている包丁を持ったチェ・ガンヒのぞっとする姿と、おびえ切った表情で冷蔵庫に閉じ込められている男パク・ヨンウの不安と焦燥感を感じさせる表情が妙に対照的だ。
パク・ヨンウは、ポスター撮影の間ずっと、実際にロープで縛られ3時間以上、狭い冷蔵庫に閉じ込められていなければならなかった。撮影が終わるころには、不安で焦燥感あふれる表情も演技ではなかったと言われている。
甘く、殺伐としたセリフたち
「彼女が好きだった歌が流れるたび、思い出に浸るという人がいる。僕は山に埋められた死体が発見されたというニュースを聞くたびに彼女を思い出したものだ」
本作品の中では、デウのナレーションのみならず、コミカルでありながらアイロニカルなセリフがあふれている。
甘く、殺伐としたロゴソング
♪甘ったるい男~ 殺伐とした女~ 偶然出会って結ばれた うははは恐ろしや とっても面白や♪
チェ・ガンヒとパク・ヨンウが映画の中のキャラクターになりきってロゴソングを歌った。
大学時代バンドボーカルだったパク・ヨンウと、長年にわたりラジオのDJをやってきたことで録音室のマイクに慣れているチェ・ガンヒの、隠れた実力が発揮されたのだ。聞きなれたメロディーだと思った方はご名答!
この、ウィットにとんだロゴソングは、CM音楽界のマエストロ、歌手キム・ドヒャンの作品なのだ。
♪トンサン食べて楽しいパーティー トンサン食べて美味しいパーティー♪
甘くて香ばしいお菓子、”トンサン”のCMソングの替え歌である。
(訳文文責:ハギ)
文中に登場した ♪再び他人♪ はこんな歌です(もちろん演歌よ~^^)