前回のブログ(イワン・レンドル:マレーの新コーチの衝撃)で、レンドルが「自分とマレーは夢の組み合わせ」と語ったことについて話しました。
今回は、その理由を、もう少しぐぐっと掘り下げたいと思います。
マレーのパーソナリティについて、皆さんはどんな印象を抱いているでしょうか?
「いつもぶすっとしている」
「あまり笑わない」
「試合で負けそうになると自分のチームに怒鳴りまくる」
きっとこんな風に思っている人たちは多いのではないでしょうか?
2010年の上海マスターズでマレーがフェデラーを倒して優勝したときのこと。
フェデラーは本大会に連続出場、中国では大人気です。
さて表彰式で司会者は、フェデラーには多くの賛辞と質問を投げかけましたが、
優勝者のマレーには「どうしていつも笑わないのですか?」という
テニスにまったく関係ない質問(笑
マレーは一言、「恥ずかしがりなので・・・」
そのあとマレーが引きつりながらも笑顔を作っている姿がほほえましかったですが。
(↓マレーがぬいぐるみをトロフィーに入れてる姿も笑える)
このエピソードでも分かるように、フェデラー、ナダル、ジョコヴィッチなどの人気のある選手と比べて、マレーはカメラや観客にアピールするのが苦手。
ジョコヴィッチはショーマンですから、コートが時には劇場のようになったりします(2010年のO2ファイナルでは海賊の眼帯をつけて現れました)。
フェデラーは毎年ウィンブルドンでRFのイニシャルの入った白い優美なコスチュームを
ご披露。
ナダルはモデル並みのルックスと試合後の無邪気な笑顔でファンを魅了。
そんな彼らと比べると、マレーの「大衆から愛されたい」という
モチベーションは多分ゼロ(笑
でもファンなら誰でも、マレーが実はブラックユーモアの持ち主だということを知っています。ただ真顔でジョークを言うのは英国人独特なので、これもマレーが誤解されるもととなっています。
ファンからすると、この媚びないところが魅力でもあるわけなんですが・・・。
さて、この「テニス界人気コンテスト」から外れているのはレンドルも同じでした。
同世代のライバル、ジョン・マッケンロー、マッツ・ウィランダー、ボリス・ベッカーがコートの外でも人気者だったのに対して、レンドルは「東欧のロボット」というあだ名をつけられています。
1986年レンドルが全米オープンで優勝した後、スポーツ・イラストレイテッド誌の表紙に「The Champion That Nobody Cares About(誰も応援しないチャンピオン)」と書かれたくらい。
でも実際にレンドルを知る人たちの逸話を読むと、レンドルがロッカールームではブラックジョークの持ち主として知られていたのが分かります。
今年の全豪オープンでも、レンドルは目の前に取り付けられた自動カメラにタオルと帽子をかぶせるという、いたずら(?)で話題を巻き起こしました。
(このカメラはマレー試合中に、レンドルの反応を撮る為に設置されたもの)
この試合のあとの貴重なテレビインタビューで、レンドルはこう語っています。
「カメラが暑がっていたので、守ってあげるためにタオルをかぶせたんだよ」
(ESPNより)
映像を見ても分かりますが、機会人間のイメージとは程遠く、ジョークたっぷりでリラックスしたレンドルを垣間見ることができます。
また同インタビューでレンドルは、「アンディ・マレーだからこそコーチを引き受けた」と語りました。
その理由は、パーソナリティーが似ているのはもちろんのこと、マレーが努力家だから。
この「努力家」というのは、まさにレンドル自身の成功の軸となった言葉です。
レンドルは、現代のパワーテニスの模範となったことで知られています。
それまでプレイヤーは生まれ持つ才能に頼ってきたのに対し、レンドルは厳しいトレーニングを積み重ねて技術を向上、「完璧主義」ともいえるプレイを目指しました。
これがロボットと呼ばれる由縁です。
(同チェコ出身のナブラチロワも、やはり厳しいトレーニングをベースに女子パワーテニスの基盤を築いたと言われています)
もしレンドルが誰かをコーチするとしたら、課題は彼の厳しいトレーニングに耐えられるかということでしょう。
アンディ・マレーは一年のツアーが終わると、12月はフロリダに飛び、家族のもとを離れてクリスマスも祝わずに次の年に向けてのトレーニングに専念、時には吐くまで走ったりします。
このマレーのテニスにかける努力からしても、レンドルにとって理想的な生徒はいないともいえます。
また、これまでマレーを指導してきたコーチに欠けていたのは、マレーの味わっているプレッシャーを理解できないということでした。
このプレッシャーは外部から与えられたものではなく(もちろんブリティッシュ・ナンバー1として、常にイギリス国民からのプレッシャーはありますが)、自分の中に潜む、トップになりたいという情熱からくるプレッシャーです。
レンドルはこのインタビューでも、「マレーは頭脳派のプレイヤーであり、
技術的に教えることはほとんどないが、彼が精神的にどんな過程を通っているかを
僕は理解することができる」と、マレーへの精神面のサポートを強調しています。
マレーは幼い頃からクリエイティブなプレイヤーとして知られており、人に指図されるのは苦手。なのでこれまで雇ったコーチとの衝突が耐えませんでした。
だからこそ、そのメンタリティを理解するレンドルとのコンビが「夢の組み合わせ」でもあるわけです。
レンドルはこのインタビューで、トニー・ロッチ(レンドルの元コーチ)から言われた言葉を引用しています。
「コートに立つのは君だ。だからもっとも正しい決断を下せるのも君だけだ。
君だけにしかその状況は分からないのだから、僕からどうしろと
指示を与えることはできない」
このローチの教え通り、レンドルも「マレーはとても頭の切れるプレイヤーだ。だから僕も(マレーのプレイに)口を出すことはしない」と言っています。
マレーがレンドルに対する敬意を抱いているのも、マレーのメンタリティにはかなりのプラスとなっています。
全豪オープンでも、マレーの状況が危なくなり「おっ、そろそろ叫びだす頃だ・・・」と思いきや、マレーはちらっとレンドルのいるボックスに目をやったあと、ぐっと歯を喰いしばってプレイに専念。これは今までのコーチではありえなかった現象です。
何しろレンドルの性格上、もしマレーが子供じみた癇癪を起こそうものなら、きっとボックス席から立ち去っているでしょう。
これまでのコーチとマレーの間に欠けていたもの、それはお互いへの敬意でした。
それをやっとマレーはレンドルという伝説のプレイヤーであるコーチを向かえて理解したようです。
マレーも過去の自分の試合を見ると、いかにポイントごとに飛び上がって喜んだり悔しがって叫んだりして、エネルギーを無駄なことに使っていたかが分かると語っています。
このコメントからしても、レンドルの勝つことに焦点を当てた試合中の態度に感化されたのが歴然です。
またグランドスラム期間中、長年の友人のジョコヴィッチのチームとサッカーの試合をするのが恒例だったのですが、今年はレンドルの指示でそれもやめました。
そして大会中の練習は、ファンやメディアに取り囲まれるメルボーン会場で行うのではなく、クーヨンのテニスコートを借り切ってプライベートで行いました。これはレンドルがグランドスラムで実践してきた方法です。
レンドルがコーチに就任してからまだ短いパートナーシップですが、すでにレンドル効果はテニス界で話題になっています。
これも、誰の聞く耳も持たなかったマレーが、突然スポンジのようにレンドルの教えを吸収するようになったからでしょう。
最後はマレーのインタビュー(BBCニュース)で締めくくります。
来週はマレーはフロリダに飛んで、レンドルとの初めての集中トレーニングに入ります。どんな結果が出るのか、とっても楽しみです!
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