ガンジス川の水は想像以上に綺麗だった
雨が洗い流したのか、ごみ1つ浮いていなかった
牛の死体や少し前までは人間まで浮いている、と聞いていた私は拍子抜けしてしまった
ガートの上には古びた修道院のような建物や塔やお寺がどっしりとそびえていた
赤やピンクや青に塗られている建物もある
建物の中で食事の支度や歯磨きをしている人々の姿が見えた
歯磨きと言っても歯ブラシではなく、木の枝を割いたようなものを使う
ガートの石段の上で老人が用を足していた
しかも大の方だった
その数段下の川の水の中では沐浴が行われている
体を洗うだけでなく、口をすすいでいる人もいる
…もはやなんと言ったらいいのか分からなかった
河辺で洗濯屋が大きな白い布にくるんだ洗濯ものを懸命に壁に打ちつけて洗濯をしていた
周辺ではツボやポリタンクが売られていて、信者が聖なる水を汲み上げ持ち帰っている
ガンガー(ガンジス川)では魚も穫れるので晴れた日には漁船も出る
水質汚染で最近は目撃されにくいが、なんと淡水イルカも生息しているらしい
向こうから青白い煙が見えて来た
火葬場だった
近づいて見ると薪がうずたかく積まれているのが見えた
こんなに朝早くからもう誰かの遺体が焼かれている
火葬場の下には灰の山が連なり、懸命にスコップのようなもので掬っている人がいた
その横には大きな牛が二頭いて、食べ物を探して鼻を突っ込んでいた
私は急に気になって、同乗のガイドに訪ねた
『焼かれた遺灰はあそこからそのまま流すのですか?』
『……そうです』
ガンジス川の底にはたくさんの人々の骨と灰が埋まっている
『インドの人は生をまっとうしてこの河に沈むことが最大の喜びなのです』
静かに見守っている私たちを乗せた船はゆっくりとまた動き出し、火葬場を後にした
戻る途中で日本人のカップルが対岸から私たちの舟に向かって手を振って来た
なんと男性の方は沐浴をするのかパンツ一丁だった
……あなたは凄い。勇気ある
帰る頃にはガートはたくさんの人々でごった返していて沐浴の場は芋洗い状態だった
石段の上はシュロの葉で編んだ日よけ傘があちこちに開き
オレンジ色の僧衣を片肌脱ぎにした僧侶が説法をしていた
真鍮で出来た5段のお弁当箱を広げて朝食をとる人もいる
髭剃り屋にヒゲを剃ってもらっている人もいた
私は泥で汚れたサンダルを川の水で洗い流し、足の先だけ沐浴した
修行僧に観光客、物乞いに観光客目当ての物売り……
いつもの喧騒と混沌のインドの国の1日がまた始まろうとしていた