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「ゆめのおと」〜プロローグからお読みいただけます。
side O
目の前のローテーブルに伏せた翔くんが、何の前触れもなく、ぱちりとお人形みたいな目を開けた。
それを合図みたいに、ベッドに長い手足を投げ出してた相葉ちゃんも、窓辺の肘掛け椅子で仰向いてた彫刻みたいな松潤も、気怠そうに動き出す。
膝もとを見れば、ソファーに繭玉みたいにコロンと丸まったニノの耳の縁がピンク色に染まっていて、その向こうに、ゆっくりと瞬く飴色の瞳がちらりと見えた。
夢ノートで見る夢の時間は正確に決まっている。
それにしても、見事同時に目覚めた4人に、おいらは感動すら覚えていた。
みんなどんな夢を見たんだろう。
見たい夢が見れたんだ。
そりゃ、耳も染まるほどしあわせだよな。
ファサ…ファサ…
ニノの柔らかな髪を指先で摘むように撫でる。
するとニノは、
「さとし…。」
いつも以上に涙で潤んだ瞳で、おいらを見上げた。
どの顔を見ても、
…うーむ。
おいらの思い描いたくふくふした笑顔は無くて、
「み…んな?夢はどうだったの?」
恐る恐る尋ねると、
「見れたよ?」
「うん、見れた…かな?」
「まぁ…全部…じゃないけどね。」
なんとなくすっきりしない3人。
「え…全部じゃない…って?」
首を傾げれば、
「まあ、言うたら、肝心なとこが落っこちてるっつぅか。」
「そうそう、最後の最後で…」
「パツン!…って終わった。」
それはヘンだよ。
おいらは思い返す。
昨晩おいらが書いた夢は、
ニノとふたりきりで無人島へ行って、釣りして、焚き火して、一緒に焼いた魚食って、それからふたりで星を眺めるだったけど、全部叶ったもん。
「え…3人とも?」
コク、コク、コクと頷く3つの頭。
そうか、それでニノも消化不良のこの表情なのか。
おいらはふたたびニノを見おろした。
「ニノも途中で切れちゃったの?」
するとニノは涙袋まで紅く染めて、
「じゃないよ。それどころか、全っ然違うの見た。」
「えっ…」
「おれがノートに書いたのは、ゲーム王になる…だったのに…」
ニノの濡れた瞳がちらりと見遣るのは、
「はっ?」
「えっ?」
「…?」
翔くん相葉ちゃん、そして潤の3人だった。
夢が途切れたという3人と、全く違うものを見たと言うニノ。
実はおいらには心当たりがあった。
それはもしかしたら…
「バグったか…」
そう言えば、一気に集まる4人の視線。
「バクるってどういうことだよ。」
勢いよく噛み付いてきた潤に、おいらはあっさりと白状する。
「そのノートって、ほんとは一人用なの。」
「は?」
秒で反応した翔くんの、全てを見抜くような眼力に、たじる。
「だ、だから、混線?しちゃったのかも…」
「混線?」
寝そべっていたベッドの上で、ゴロンと身体を返した相葉ちゃんの声だけが唯一のんびりと優しくて、ちょっとほっとした。
「あー!だから、あいばさんもじゅんくんもしょおちゃんも…」
起き上がりこぼしみたいに身体をぴょこんと立てたニノの声はなぜか尻つぼみで、
「出てきたの?ニノの夢に?」
驚く3人の視線は、そんなニノに釘付けになる。
「て、ことは…それって…」
相葉ちゃんの瞳が宙に弧を描けば、
「3人のブチ切れた夢の続きが、ニノのとこに…」
言葉を繋いだおいらを、
「さとしくん。」
突と翔くんが遮り、
ペシッ
ニノの手がおいらの頭をはたいた。
面食らうおいらを他所に、3人はなんだか気まずい空気を醸し出すし、ニノはニノで、行き場が無いと言わんばかりに、いつになく執拗においらの背中に擦りつくし。
潤も相葉ちゃんも翔くんも、ニノに知られちゃまずい夢だったのか?
この雰囲気からすると、分かってないのはおいらだけみたい。
おまえら、いったいどんな夢見ようとしたんだよ。
おいらは、背中にニノを貼り付けたまま、3人の顔に交互に視線を送ったのだった。
fin…(?)