新型コロナで緊急事態宣言が出て、合唱もお休みになりみんなに会えなくなっていた頃

仲間の一人から「背教者ユリアヌス」の第一巻が送られてきました

「あなたに是非読んでもらいたいのよ。
人に貸したらなくなっちゃったので一巻だけ買ったのよ。もし気に入ったらあとは自分で買ってね」とのこと

第一巻から第四巻まである長編なのです

タイトルを見て、えー?なんだか難しそうだなあ、堅い本なんじゃないの?
と思いましたが少し読んでみました

海からの濃い霧の流れの中から黒ずんだ尖塔がかいま見える
そして一挙にコンスタンティノポリスの宮殿の屋根の連なりが息を呑むような鮮やかさで現れる
その朝、ユリアヌスの母となるバシリナが怖ろしい夢を見る

このように物語が始まり、この後どうなるのか知りたくて読まずにはいられなくなりました

コンスタンティウスとヘレナの息子がコンスタンティヌス、その子供たちは、コンスタンティヌス二世とコンスタンティウスとコンスタンスとコンスタンティアとヘレナ

コンスタンティウスとテオドラの子供がユリウス、ユリウスとバシリナの息子がユリアヌス、ユリウスとガラの息子がガルス(ユリアヌスの異母兄)

という具合の紛らわしい名前のオンパレードで、混乱しそうになるのですが、

作者の辻さんは主要な登場人物が出てくるたびに、その人の外見の特徴を書いてくださるので、ああ、あの人ね!とわかるのです

ユリアヌスが青年になりニコメディアでギリシャ古典や哲学や修辞学を学びます

コンスタンティヌス大帝の一族であることを隠し、普通の学生たちと共に学ぶユリアヌス

親友のゾナス、軽業師の娘でユリアヌスに想いを寄せるディア

ある日、コロセウムで催し物があった

ゾナスたちはユリアヌスのためにいい席を取って待っているが、ユリアヌスがなかなか来ない

ずっーと先方には皇帝一族の席があった

兄たちと共にユリアヌスがそこにいる

ゾナスが、「あれはユリアヌスではないか?!確かにユリアヌスだ!」と確信する

曲芸が終わって皇族たちの前に近づきお辞儀をして顔を上げたディアは、

ユリアヌスと目が合って驚きのあまり動けなくなる

軽業師の仲間がディアの腕を引っ張って退場する

聴衆はそれも芸の内と思い爆笑する

そんな場面で第一巻が終わってしまうのです

これではその後が知りたくてたまらなくなるでしょう

普段はあまりネットで買い物をしない私ですが、すぐにネットで探して第二巻から四巻を入手しました

ネットは便利だね〜、二日後に届きました

私はこれまで辻邦生を知りませんでしたが、
情景描写が素晴らしく、人間模様も面白いです

不吉な夢や、暗示があり、アテナ女神の姿やローマの守護神が現れる場面

黒いベールを被った女に危うく騙されそうになる場面などはとても興味深く

あらゆる場面が目の前に想像できました

ユリアヌスはそこここで自然の甘美な美しさに目を見張り酔いしれ感動し神々に感謝している

私もこの地球こそ楽園だと思っています

ローマの神殿がキリスト教徒に壊されていたことは知らなかった 

ユリアヌスはキリスト教を排除するのではなく、ローマの秩序の中において存在することを望んでいました

勤勉で優しいユリアヌス、望まない戦いで若き命を落とすことになります

このユリアヌスが西暦300年頃に実在した人物なのだと思うと、あ〜、何とも言えない気持ちになります

それにしてもこんなに面白い物語がなぜ映画になってないのかなと、それが不思議