お昼の後、小藤次さんは舟の上で本業の研ぎ仕事に精を出します。
夕方の五時ころ、久慈屋の小僧・国三さんが姿を見せました。
国三さんが小藤次さんの芝居見物に興味津々です![]()
「怒っておられますよ。」
「怒っておられる?だれがかな。」
「だれがって。奥の女衆がですよ。
お内儀様とおやえ様がどうして赤目様は私たちを誘ってくれなかったんだと
大番頭さんに訴えたそうですよ。」
と国三さん、小藤次さんを脅かします![]()
結局、久慈屋さんでも小藤次さん達を同じ日に、
市村座の桟敷を1つ買うことで決着がついたようです。
「それで赤目様に相談があるんですが。」
と国三さんは愛想笑いをします![]()
「大旦那様は、芝居見物は嫌だとおっしゃるし、浩介さんは仕事だし、
女だけで供がいないのは不便ですよね。」
と国三さん、女性だけでの芝居見物の不便さと訴えます。
国三さん、なにかたくらんでいるみたいですね![]()
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「国三どの、そなたも芝居見物に参りたいのか。」
「当たり前ですよ。眼千両、杜若半四郎様のお芝居が見たいんですよ。」
やっぱり
どうりで自分を売り込むのに必死だったわけです![]()
「小僧さん、そなたは未だ奉公の身じゃぞ。
おやえ様の旦那になられる浩介さんが仕事で芝居見物どころではないと断ったというに、
小僧のそなたが供をするでは物の順序が違おう。話にもなるまい。
芝居見物、吉原通いはもう少し辛抱してからにしなされ。
そなたがお店を持った暁には、芝居でも吉原でも自由じゃからな。」
と小藤次さんからお小言をくった国三さんですが、効き目なし…![]()
「私がお店を持つなんてことがあったとしても、
そのときは岩井半四郎様があの世に逝かれてますよ。」
とぷんぷん怒って店に戻っていきました![]()
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この様子を久慈屋の荷運び頭・喜多造さんが船着場から見ておりました。
喜多造さんは小藤次さんの舟に歩み寄り、
「国三め、なんぞ腹を立てて店に戻ったようですな。」
と笑いかけました。
「小僧さんも岩井半四郎様に夢中のようでな、市村座に見物に行きたいらしい。
芝居見物はもう少し辛抱してお店を持ったときにしなされと言ったら、あのとおりだ。」
「国三め、赤目様なれば話を聞いてくれると甘えてやがるんですよ。
ちょいと厳しく言い聞かせておかなきゃあ、後々のためにならねえ。」
と喜多造さんは厳しい顔で言いました![]()
船で紙を運ぶのが仕事の喜多蔵さんは、直接売り買いに携わるわけではないので、
商人の奉公人と言うより、職人の気風を持っております。
「ちとそれがしが甘えさせましたかな。」
小藤次さんと国三さんは、水戸行きに同道したこともあり、
他の奉公人よりも密な付き合いをしておりました。
そのせいで国三さんに甘えが生じちゃったようですね…![]()
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これから奉公人として長い出世の階段を勤め上げるには、
厳しい自省と辛抱が必要、甘えはしくじる因になると、
喜多造さんも小藤次さんも心配しているのです。
「喜多造さん、よい機会を見つけて注意して下され。
赤目小藤次は久慈屋様に出入りの研ぎ屋の爺で、なんの力もないとな。」
「赤目様の真の偉さが分かってねえんですよ、国三め。」
喜多造さんはすべて呑み込んでくれたようです![]()
さて、夕方の六時をまわった頃、小藤次さんも仕事を終えました。
そこに京屋の菊蔵さんが現れます。
市村座に話がとおり、無事桟敷を確保できたようです![]()
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観右衛門さんも加わってお芝居見物の話に。
「となると、見物の日まで三日を残すばかり。」
と奥に知らせに行く気配をみせた観右衛門さんに、
「大番頭どの、三日後にございますか。」
と小藤次さんちょっと驚いた声で念を押します![]()
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おりょうさんに知らせておいた方が…という小藤次さんに、
観右衛門さんは、日に2度の往復はきついからと、
人をやっておりょうさんに伝えさせると請け負ってくれました。
と、土間で店仕舞いの片づけを終わった国三さんが、
「大番頭さん、私がそのお使いに参ります。」
と言い出しました。
次回へ続く![]()

