掛取りに行く観右衛門さんに付き添い、小藤次さんも店を出ました。
供には国三さんが従っています。
小藤次さんが事情を説明して同行を願ったのです。
経緯を聞いた観右衛門さんはすぐ、
「私も、近頃の国三の奉公ぶりが雑になっていることを
気にしておりました。
喜多造と赤目様が注意して利かぬとなれば、
いささか重症にございますな。
掛取りの頃合いを見計らってとくと叱りましょう。
かようなことは早いうちに言い聞かせておかぬと、
後々のためになりませぬ。」
と請合ってくれました。
道々、国三さんが軽口一つ叩きませんでした。
なんとなくおかしいと感じていたようで

支払いを受けた七十七両
を包んだ風呂敷を背負い、
その端をしっかりと両手で握り締めていました。
途中茶店に入って休憩
「二人です。」と観右衛門さんが座敷を借ります。
「大番頭さん、私はこちらでお待ちします。」
と答えた国三さんに、観右衛門さんの険しい眼差しが注がれます
「いえ、私と一緒に座敷に上がるのはおまえさんです。」
と言い放つと、国三さんの体はぶるぶると震えました



2時間ほどたった頃、真っ青な顔の国三さん
を伴い、
観右衛門さんが茶屋の玄関に姿を見せました。
国三さんの頬には涙が流れており、これを拳でぬぐっております

次の立ち寄り先へと向かう中、3人は一言も口を利きませんでした。
ただ、国三さんのしゃくりあげる声が聞こえています
次に訪れた大名家の玄関の部屋に国三さんを残し、
観右衛門さんと小藤次さんは中へと案内されました。
時候のご挨拶を兼ねて訪れたのですが、
評判の小藤次さんが一緒ということで、商いはそっちのけ

小藤次さんを質問攻めにしています




やっと解放されたのは午後6時を過ぎた頃でした。
玄関先の部屋に声をかけると、玄関番の若侍が、
「久慈屋、小僧はつい半刻以上も前、
先にお店に戻るとわれらに言い残して帰ったぞ。」
と教えてくれました。
思わず顔を見合わせた観右衛門さんと小藤次さん


駕籠を使い、急いでお店へと戻ります。
しかし、国三さんはお店へは戻っておりませんでした。
観右衛門さんは、久慈屋の婿となる浩介さんと奥へ事情を説明に。
小藤次さんは、お店の方々と国三さんを探す段取りをすることになりました。
番頭の大蔵さんの指図で奉公人があちこちへ探しに出かけ、
店には大蔵さん達数人の番頭と、荷運び頭の喜多造さんなど久慈屋の幹部、
そして小藤次さんだけが残りました。
「赤目様、国三のやつ、大番頭さんのお叱りを受けたのですね。」
喜多造さんが尋ねました。小藤次さんは今までの事情を皆さんに説明。
大蔵さんも、浮ついていた国三さんを見逃していたのを反省します。
と、大蔵さん、「あっ
」と何かに気づいたように驚きの声を上げます。
「国三は、まさか掛取りの金子を持っていたのではございますまいな。」
「それが番頭さん、下谷車坂の寺で受け取った七十七両を
背に負うておりますのじゃ。」
「なんということ。」
その場の皆さんの顔は青くなってます…

その後、探しに行った皆さんが戻ってきましたが、
国三さんの姿はどこにも見かけませんでした。
次回へ続く
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