と、じーじが私に聞いてきた。
また記憶が昔に戻っているらしい。
じーじは早くに両親を亡くしていて、姉と妹と三人で暮らしていた。
じーじが「帰らないかん」という家は自分が建てて45年間も住んだ家ではなく、ばーばと二人で結婚以来暮らしていた市営住宅でもなく、兄弟三人で暮らしていた当時の家だ。
当時の暮らしと今が合致しているのだろう。
ばーばは姉さんで、私は妹だと思っている。
私の事は妹の名前で呼ぶ事も多い。
今目の前にいるばーばは、記憶の中のリウマチを患って身体が不自由だった姉さんで、いつも怒ってばかりいる私は、生意気だった妹なんだろう。
じーじの気持ちはわからないでもない。
自分の愛した細身の美しい妻と、可愛がって育てた「パパ大好き」と言っていた幼い娘はどこにもいない。
代わりにいるのは、歯が抜け足が不自由なおデブ婆さんと、目を吊り上げ怒鳴り散らすヒステリーおばさんだ。
認知症になるのは、訪れる死への恐怖を和らげるための、自己防御反応という説もある。
だとしたら、じーじの現実逃避は仕方ないのだろう。
せめてじーじの記憶が、辛かった戦時中に戻る事のないようにしたい。
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