じーじの徘徊が常習化した原因は、強い帰宅願望だ。
見知らぬ街の娘宅に、強制的に連れてこられたじーじにとって、この帰宅願望はごく当たり前の反応だ。
帰宅願望はじーじだけではなかった。ばーばも口を開けば「家に帰らなあかん」と言い続けた。
もう二人だけで暮らすことはできない。まだ高校三年生の息子がいるので、私一人がじーじとばーばと実家で暮らすことはできない。
何度も何度も同じ説明を繰り返しても、理解してくれない。
二人のためを思って、最善の策を考えて決めたことなのに。夫や息子にだって我慢をさせてるのに。
じーじの徘徊が常習化した原因はもう一つある。当時私がフルタイムで働いていたからだ。
常にじーじを見守ることができなかった。
当初は、ばーばに任せておけば、留守番ぐらいできるだろうと思っていた。
とんだ誤りだった。
私が仕事に出かけ二人だけになると、じーじは出歩く。家に帰るつもりだったのか、普段の散歩のつもりだったのか。
ばーばも、娘宅にいることを忘れ、自分たちの家にいるときのように、じーじを見送っていたのだと思う。
しかし、じーじは帰ってこない。道がわかるわけがない。
ばーばから私の勤務先に電話がかかってくる。「じーじがいなくなった」
そのたびに仕事を抜け、じーじを探し回る。GPSの端末を持たせていたのでおおよその位置はわかる。
やっと見つけたその姿は、鼻水とよだれをたらしながら、ヨロヨロになりながらも、ただやみくもにまっすぐ歩き続けていた認知症の老人そのものだった。
もう、仕事を続けることはできない。でもすぐにやめることもできない。
年内いっぱいで退職することに決まったが、それまでのあと三か月どうする?
介護サービスを受けることも考えたが、息子が高校を卒業したら実家に戻ろうと考えていたので、このまま様子を見ることにした。
徘徊のたびに、じーじを探し回る生活が続いた。
そのつど、じーじに怒鳴り・罵声を浴びせ、ばーばに八つ当たりし、受験生の息子の精神状態にも悪影響を与え、なにより自分自身が追い込まれた三か月だった。
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