恋人と暢気にプチ旅行 なんて行っているうちに、昇格試験の論文試験が明後日に迫ってしまいました。
まだなんの準備もできていなく、今になって焦り気味……。
アタシ、いつもそうなんですよね。
土壇場にならないとできないのです。
他の同期のみんなは、上司が非常に意欲的で、すでに3月2週目に行われる面接試験の練習をしているというのに
でも、正直、それどころではありませんでした。
2週間前に大好きだった先輩が突然亡くなって 、1週間ほどは、家にいる時間の半分ぐらい、泣いて過ごしました。
そんなつもりはなかったのに、恋人の前でも泣いてしまい ……。
おまけに、先輩が亡くなる少し前に、別の先輩(というか、形上は上司)がもうすぐ会社を辞めることを、極秘に聞かされていました。
アタシが業務をすべて引き継ぐことになるから、心の準備を、と。
さらに、サポートしてもらっている派遣社員の子とアルバイトの方の契約が3月で切れるため、その業務もすべてアタシに戻ってくることに。
そこへ来て、先輩の死……。
先輩がしていた業務の8割は、資格が要るものであり、その資格を部内で持っているのはアタシだけです。
必然的に、先輩の業務のほとんども、アタシが受け持つことになりました。
一気に部内の4人の女性がいなくなり、残りは2人。
しかも、もう1人は嘱託社員なので、正社員はアタシ1人です。
そして、自分の業務に加え、ほぼ4人分の業務が加わるわけです。
4月になったら新入社員が2人入ってくるので、うち半分ほどは彼女たちに振るのですが、とにかく7月ごろまでは精神的にも肉体的にも余裕がありません。
どうしてこうも、重なってしまうのか……。
先輩が亡くなった日、関係者への連絡などに追われ、20時ぐらいに会社を出ると、同期の子と帰りが一緒になりました。
「あ、栞ちゃんも今? もしかして、面接の練習してたん? 私もやねん。あー、嫌やなぁ、面接」
自分はなんて心が狭いんだろうと思いました。
内心、彼女を憎らしく思ってしまったのです。
先輩が亡くなったことは、夕方17時ごろ、全社に通達が回ったはず。
なのに、彼女の意識の中にはひとかけらもそれがなかったのです。
「今日はそれどころじゃなくて……」
「何かトラブルでもあったん?」
「いや、夕方、通達回ったと思うけど……」
「……ん? なんかあったっけ? ……あぁ、そういえば、なんか回ってきたなぁ。○○さん、亡くならはったんやっけ? 最近多いよなぁ、○○部長の奥さんのお父さんもこないだ亡くならはったし」
彼女にとって、同じ社内の顔見知りの人間が亡くなることと、見たこともない上司の義父が亡くなることは同率なのかと、哀しくなりました。
しかも、部長の義父というと、もう大往生といっていいぐらいの歳。
先輩なんてまだ、その部長の歳にも達していないというのに。若いのに……。
それがすごく悔しくて、暢気に自分の面接のことしか考えていない彼女が憎かったのです。
環境的に恵まれている彼女たちが羨ましく思えた面もあったのかもしれませんが。
でも……人を出し抜くためには、こうしたドライな感情と精神力が必要なのかもしれません。
今日の、フィギュアスケート女子シングルショートプログラム(SP)の闘いを見ていても思いました。
浅田真央選手が滑り終わったあとに、キム・ヨナ選手が見せた不敵な笑み。
女子シングルSP初のトリプルアクセルをあんなに綺麗に決められ、相当なプレッシャーだっただろうに、それすらも自らの力に変えているように見えました。
「これから私がもっとすごいものを魅せてあげるわ」と言わんばかりの、自信に満ち溢れた表情でした。
それは演技にもそのまま表れていて、浅田真央選手が少し硬かったのに対し、キム・ヨナ選手は終始リラックスした伸びやかな滑りでした。
これは確かに負けたな、と認めざるを得ないほど。
“出し抜く”とかは好きじゃないけれど、その冷静さと強い精神力は、やはり見習うべきものです。
明後日、浅田真央選手がフリーを滑るころは、ちょうどアタシも論文試験中ですが、それを念頭に、心の中で声援を送りつつ、第1段階の論文試験に取り組みたいと思います。
真央ちゃん、ともに自信を持って頑張ろうね!
先輩、応援よろしくお願いいたします。
これから、試験の準備に取りかかります。