洗い物を終え 、部屋に戻る。

恋人は、早々とベッドの上に場所を移していた。



「そしたらアタシもシャワー浴びてこようかな」


彼に一声かける。


「どうぞ。適当にテレビ観とくわ」

「うん。寝といてくれてもいいし。もう時間も遅いから」


アタシが気になっていたのは時間だった。

もうすぐ深夜1時。

シャワーを浴びて、髪の毛を乾かして、歯磨きをして……なんてしていたら、2時ごろになるだろう。


アタシは次の日(12月26日)、土曜日で休みだけれど、彼は仕事。

遅くとも7時にはウチを出なければいけない。


寝不足&遠距離運転で、彼の仕事に支障をきたしてしまうんじゃないかと思うと心配だった。

彼の仕事の妨げになるのだけは、彼女として耐えがたい。

だから、少しでも休んでほしかった。


そんなアタシの気持ちを察したのかはわからないけれど、彼は「ありがとう」と言って、笑った。



タオルや着替えを準備していると、彼の視線を感じた。


「ん?」


首をかしげると、


「ううん」


そう言って彼はほほ笑むだけ。

ベッドの下の引き出しを開けようとすると、またしても彼がこちらを見ていた。


「どしたん?」


すると、彼が笑顔のまま、まっすぐ指を差した。

アタシの後方を。


そこにあるのは、室内物干し。

何かまずいものでも干していたかと、若干焦る。

彼が来るとわかっていたので、下着は干していなかったはずだけど。


そう思いながら振り返った。


すると……



「え……?」




絶句するアタシ。


「干してみた(笑)」


彼はいたずらっぽく笑う。

洗濯物に紛れて干されていたのは、紙袋だった。


「え、何これ……」


茫然とするアタシに、


「プレゼント」


と、彼がニヤリ。


「えーーーーーー!!!」


驚きすぎて、他に言葉が出てこなかった。


クリスマスだから?

でも、クリスマスは嫌いだから何もするなって、この8年、1度もプレゼント交換なんてしたことないよね?



「えーーー、ちょっとー、何してんのよぉ……」

「ふふふ。干してみた」

「もう……、何してんのよ……」

「ちょうど空いてたし干してみよっかなって」


アタシは「プレゼントなんか用意して何してるのよ」というつもりで言ったのだけれど、彼は「プレゼントを干したりなんかして何してるのよ」と受け取ったらしい(笑)


「えー、ちょっとぉ……、いやぁ、ありがとう」


プレゼントをもらうことに慣れていないアタシは、恐縮しきりだった。


「いや、ずっとさ、誕生日何もあげられてなかったし、それが気になってて」

「えー、そんなんいいのに……」


アタシは彼の腕を軽くポンポン叩いた。


「結局(時期がクリスマスと)一緒になってしまったんやけど」

「えー、いいのに、ホントそんなん……。――でも、ありがとう」


約2カ月半遅れの誕生日プレゼントということらしい。

誕生日にプレゼントをもらうのは、前年 に続いて2回目。

正直、アタシは日を覚えてくれているだけで感激だった ので、プレゼントなんてなくても充分だったのに……彼の計らいが胸に沁みた。



「開けていい?」

「うん、開けてみて」


紙袋から、リボンのかかった箱を取り出す。

そのリボンを丁寧にほどき、ドキドキしながら箱を開けた。




素直な女になるために……-プレゼント2009(1)

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入っていたのはベージュゴールドのシュシュシュシュ



「いやん、かわいい!!」


アタシは手にとってよく見た。

「それはシュシュですねぇ」

「うん! 色がめっちゃ綺麗やね♪ これ、活用しまくるわ!」


普段からよくシュシュを使っているのを、彼はちゃんと見ていてくれたんだな、と思った。


「ありがとう!」


彼のほうを見て言った。

すると、


「その下にもあるねん」


と、彼が箱を指差した。


「え、下?」


シュシュの下には、ベージュの薄紙が敷かれていた。

よく見ると、真ん中がシールで留められている。


「え、この下にもあるの?」

「ていうか、そっちがメイン。シュシュはおまけやね」

「え、おまけ!?」


おまけで大喜びしているアタシ……恥ずかしすぎる。

彼はクスクスと笑っていた。


気を取り直して、薄紙をゆっくりと開く。


素直な女になるために……-プレゼント2009(2)

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「わぁ、かわいい!!」


そこに現れたのは、2つのネックレスだった。


「パジャマに着替える前につけてみてほしくて」


だから、シャワーへ行く準備をするアタシをずっと見ていたのか、と思った。

シャワーへ行く前にと、タイミングを計っていたのだろう。


「これ、2連でつけられるんや!」
「うん。2連でもいいし、単独でつけてもいいし」

「わぁ、すご~い!! ちょっとつけてみる!!」


まず、内側の短いネックレスをつけてみた。

姿見に自分を映す。


「あー、これかわいいわぁ!」


鏡に映る姿に満足していると、


「こっち向いて」


と、彼から催促された。


「どう?」


彼のほうへ振り返る。


「おぉ、いいやん! よく似合ってるわ。着てる服が黒やから、ゴールドが映えるな」

「あー、確かに! よし、じゃあ、こっちもつけてみるね」


アタシはもう一方のジャラジャラのネックレスを手にとった。

そして、姿見を見ながらつける。


「あ、それ後ろも綺麗やな」


彼が背後からそう言った。


「後ろ?」

「うん、1本長く垂れ下がってて綺麗やわ」

「こうやって見えるかなぁ?」


姿見に背中を映してみる。

髪の毛が邪魔で見にくい。


「あ、さっそくこのシュシュ使お!」


髪を耳の横で1つにまとめた。

これならよく見える。


「あー、ホンマ。これ長いんやね」

「そうそう。それが綺麗やねん」




素直な女になるために……-プレゼント2009(3)

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内側の短いネックレスは調整部分も普通の長さなのだけれど、ジャラジャラネックレスのほうはすごく長い。
しかも、どちらも先端にパールの飾りがついていて、長く垂らすとそれが揺れてなお綺麗なのだった。



「ありがとう。大切に、でもめっちゃ活用するね!」

「よかった、喜んでもらえたようで」

「うん、めっちゃうれしいよ!」


そして、ネックレスを外しにかかった。

が、チェーンの穴の形が少し特殊で、まだ慣れていないため、外しにくい。


「大丈夫? 外そか?」

「うん、ゴメンね、お願いします」


アタシはベッドに腰掛け、彼に背中を向けた。

これだけで、ちょっとドキドキしてしまった。


彼に外してもらったネックレスを、元あったように綺麗に戻す。
薄紙をかぶせて、その上にシュシュを載せた。



「あ、そのシュシュ、ネックレスのどこかの部分をつけられるらしいで」

「ん? つけられるって?」

「いや、店員さんがなんか説明してくれたんやけど、ようわからんかって。でも確かそんなこと言ってた気がする」


もう一度、薄紙を開けて、ネックレスを覗いた。


「あ、これか!」


短いネックレスのチャームが、取り外せるようになっていた。

それを、シュシュのチャームの部分につけることができるというのだ。

こんなふうに。



素直な女になるために……-プレゼント2009(4)

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「すごいね、いろいろ組み合わせられるんや!」

「ようわからんけど、そうらしい(笑)」

「考えてあるなぁ! ホンマありがとう」


今度こそ、すべてを箱に戻し、シュシュで箱が浮くので、軽くリボンをかけて紙袋に納めた。



「実はこれ、今日買ったねん」

「あ、そうなん?」

「ここに来る前にパルコに寄って、でもあんまりいいのなかったから、隣の西武に行って、そしたらこれを見つけたねん」

「そやったんやぁ」


忙しいのに、いろいろ見て回ってくれたんだ、とありがたく思った。

また、ケーキを食べながら、いつ着いたか尋ねたとき「結局8時(20時)ぐらいやったなぁ」と言ったのは、だからだったのか、とも思った。

彼としては、もう少し早く着くつもりだったのだろう。


アタシのためにプレゼントを買って、ケーキを買って、そして4時間も待っていてくれて……どんな言葉も陳腐に思えるほど、感謝の気持ちでいっぱいだった。




つづく ……