シャワーを浴びながらも、ずっと、さっき恋人からもらったプレゼントのこと を考えていた。
(あの人が、あんなサプライズ的なことをするなんて……)
前からやさしい人ではあったけれど、やはりあの話 をして以来、彼のやさしさは増した。
最初は気のせいかもしれないと思っていた けれど、彼が「真面目な話をする」と前置きをした上で語ったあの夜 、それが気のせいではないことを悟った。
無理をさせているんじゃないか、それだけが心配だった。
心苦しかった……。
部屋に戻ると、彼はテレビをつけっぱなして眠っていた。
タオルを干し、手を洗うために一度、洗面所へ行く。
そして再び部屋に戻った。
(おや?)
さっきついていたはずのテレビが消えていた。
どうやら、眠っているように見えて、完全に熟睡していたわけではなかったらしい。
最初にアタシが部屋に戻ったときの物音で目を覚まし、テレビを消したのだろう。
いつもなら、アタシがベッドに入り、触れるまで目を覚まさない彼が、やはりさっきのサプライズの影響で、脳のどこかが興奮状態にあり、熟睡には至らなかったのかもしれない。
彼の隣に身体を滑り込ませ、照明を消した。
すぐに彼の腕が絡みついてくる。
軽く唇を重ねた。
「今日はホンマありがとう」
彼の耳元でささやく。
「ケーキもおいしかったし、プレゼントもかわいかったし」
「気に入ってくれた?」
「うん! これからいっぱい使うから!」
アタシがそう言うと、彼もうれしそうに笑い、頭をなでてくれた。
「もう2時か。すっかり日付変わっちゃったね。ゴメンね、遅くなって」
「あぁ、それはいいんや。こうして会えたし」
「うん、でも……明日も仕事やろ?」
「仕事やなぁ。行きたくねぇなぁ。もうずっとここにおりたいわ」
再び、お互いの唇が触れ合う。
唇の感触を確かめあうような、小鳥がついばむようなキス。
そこから、舌を割り入れられ、貪るようなキスへと変化していく。
感情が昂り、息遣いが激しくなってくる。
パジャマの上から胸のあたりをなでられた。
身体がピクリと反応する。
と、
「脱いだら寒いかな?」
早くも彼の指がアタシのパジャマのボタンにかかっていた。
「シャワー浴びたばっかりやし、大丈夫」
言い終えたころには、もうすべてのボタンが外されていた。
それをベッドの下に落とす。
上はキャミソール1枚になった。
その日着ていたキャミソールは、彼のお気に入りだった。
手触りがスベスベしていて気持ちよく、これを着ているときはいつも、すぐには脱がせずに、その手触りを堪能していた。
もちろん、クリスマスの夜だからと、意図してそれを選んだ。
きっと、特別な夜になるに違いないと思ったから。
そのキャミソールは、胸の部分で切り替えになっていて、上部はレースだった。
つまり、角度によっては先端が透けて見えてしまう。
彼は、キャミソールの上から、その見え隠れする先端を口に含んだ。
薄い布地を通して、彼の舌のぬくもりと感触が伝わってくる。
そんなことをされるのは初めてで、もうドキドキしてしかたがなかった。
「ん……」
たまらず声が漏れる。
……と、今度は彼の手がパジャマのズボンにかけられた。
そのまま、スルスルと脱がされる。
アタシのキャミソールも脱がせると、彼自身も上半身裸になった。
太ももやお腹にキスをされ、下着の上から、まるで形を確かめるかのように、指でなぞられた。
自分でもわかるほど濡れていて、すごく恥ずかしかった。
下着をも剥ぎ取った彼は、いきなり唇をそこへ押しつけてきた。
そして、舌を縦横無尽に動かし始める。
アタシが乱れれば乱れるほど、彼は動作を早く、強くしてきた。
無意識のうちに、手が彼の腕を掴んでいた。
すると彼が、アタシの手を返して、指を絡めてくる。
彼の舌が奥を刺激するたびに、絡めた指に力が入り、声が抑えきれなくなった。
脱力したアタシを、今度はいたわるように、彼が包み込んでくれる。
さっきまでの激しさが嘘のように、静かなキスをした。
「なぁ、変なこと訊くけどさ……」
アタシの頭をなでながら、彼が口を開く。
「うん?」
「……“した”ってきもちいの?」
“した”って……?
下? それとも舌?
「“した”ってこの舌?」
アタシは彼の唇を指でつついた。
「そう、舌。きもちいのかなって、ふと思って。やっぱりきもちいもんなん?」
「えー、うん……そやねぇ(照)」
これがアタシの精一杯だった。
「クリスマスももうすぎたから、こういう下品な話していいかなーと思って(笑)」
「なるほどね(笑)」
それ以上、何も言わなくていいよう、彼の身体に指を這わす。
彼にはすべてお見通しだったうようで、笑われてしまった。
いざ、反撃開始。
キスをしながら胸やお腹をなでまわし、さんざん焦らす。
たまらず彼が、アタシの頭を掴み、舌を絡ませてきた。
息遣いが荒々しい。
ゆっくりと手を下に移動させ、太ももをなであげる。
いよいよズボンの上から触れると、そこはすでに硬くなっていた。
形に沿って、指でなぞってみる。
ビクッと彼が反応した。
先のほうが少し湿っている。
ズボンに手をかけ、ずらすと、彼が残りを自分で脱いでくれた。
直接それに触れる。
再びキスをしながら手を動かした。
しばらくして身体を起こし、今度は口に含む。
舌と唇で、それを味わい尽くした。
彼の手がアタシの腰に回り、引き寄せられる。
アタシは、彼とは上下逆になって、覆いかぶさった。
お互いがお互いを、手と口で愛撫する。
途中、何度も力が入らなくなりながらも、懸命に。
感じつつ、感じさせる。
それはいつも、究極の時間だった。
180度回転して、彼の上に馬乗りになった状態で、腰を沈める。
この体勢が、実は一番弱い。
胸をわしづかみにされたり、抱き寄せてキスをされたり。
そして、彼が動けば動くほど、奥から滲み出るものがあった。
水をかきまぜるような音が部屋中に鳴り響き、恥ずかしくなる。
その恥ずかしさを紛らわせようとして、自分の声までが大きくなる。
ふと彼が、アタシの顔を両手で挟んだ。
しばし見つめ合う。
「大好き……」
つぶやくようにそう言ってほほ笑んだ後、アタシの顔を引き寄せて、深くキス。
「アタシも……大好き」
今度は自分から唇を重ねた。
唇を離し、アタシが身体を起こすと、彼も身体を起こしてきた。
お互い座った状態で抱き合う。
彼が小刻みに動き、振動を伝えてくる。
アタシは必死で彼にしがみついていた。
「これも……」
彼が何かささやいたのだけれど、頭がボーっとしているのか、聞き取れなかった。
「ん? 何て?」
訊き返すと、彼は今度は少し大きめの声で、
「これもまた、新たな体位やな」
と言った。
そう、アタシたちにとって、この体勢でするのは初めてのことだった。
これまで、彼の上に乗っている体勢が一番弱いと思っていたけれど……これもヤバいかも。
そんなアタシの心の声が聞こえたのか、
「こっちもイケた?」
と、彼がニヤリ。
「アタシ?」
「そう」
「……うん」
答えると、彼がフッと笑い、胸の先を指でいじった。
「やん……」
「ふふふ。……どっちがよかった?」
「え? どっちって……どっちも」
恥ずかしくて、彼の首元に顔をうずめる。
「ちっ、うまく逃げたな(笑)」
彼は笑いながら、もう一度動き始めた。
と、そのとき、隣の部屋の物音が聞こえた。
「ほらぁ、そんな大きな声出すから、隣の人、怒ってるわ(笑)」
「えー、聞こえてるんかなぁ……?」
「聞こえてるんちゃうか? いくら壁薄くないとはいっても」
「えー、嫌やぁ……」
そんな話をしているというのに、彼はまた動く。
こらえきれず、声が出てしまう。
「……ん……無理(泣)」
アタシが首を横に振ると、彼は頭をなでてくれた。
「まぁ、いいやん」
いいことないよ、聞こえてたら恥ずかしいよ、そう思ったけれど、我慢できないのだからしかたない。
彼の首筋に軽く口づけた。
一度離れ、アタシが下、彼が上になって入れ直す。
安心できる体勢は、やっぱりこれ。
あらためてそう思った。
彼の背中に手を回すと、じんわりと汗が滲んでいた。
それだけで、なんだか愛おしくなる。
ギュッと手に力をこめた。
そして……。
時計を見ると、もう3時半だった。
眠ってしまう前に、トイレへ行っておく。
戻ってくると、彼も行った。
その間に、下着を身につける。
そこへ彼が戻ってきた。
彼は、アタシに一瞥をくれた後、裸のままでベッドに入った。
(あれ? 着ちゃダメだったかな?)
不安になり、
「下着だけ、着ちゃった」
と告げる。
「ん? ああ」
どういう意味の「ああ」だったのかはわからないけれど、彼はそのままアタシを抱きしめたので、ま、いいかと思い、横になった。
「あ、6時半に目覚ましセットしてもらってていい? 明日は遅れられへんから」
「うん、わかった」
目覚まし時計を6時半にセットする。
そして、終えたばかりだというのに、彼にさんざん身体をなで回されながら、そのうち眠りについた。
“「おはようございまーす」「おはようござ、ございまーす」「おはようございまーす」……「起きま……」”
大音量で、堂本剛君、堂本光一君の声が響き渡り、あわてて止めた。
そんなアタシの目覚まし時計(笑)
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ケータイのアラームだと気づかない彼も、これだとたいてい、起きる。
たま~にこれでも起きないことがあるけれど。
その日はちゃんと起きたようで、アタシの身体に手を回してきた。
ゆっくりと動く手のぬくもりが心地いい。
キスを交わす。
3時間弱しか眠っていないはずなのに、妙にスッキリとした目覚めだった。
「ん?」
彼がアタシの下着に手をかけていた。
「仕事遅れるよ?」
(今日は遅れられないんじゃなかったの?)
心配になる。
「大丈夫」
おそらく根拠もなく、彼がそう言った。
もはや、何を言ってもしかたがない。
「それより……下着姿がそそる」
どうやら、アタシのせいらしい。
彼が気に入るキャミソールは、彼のスイッチまで入れてしまうらしい。
朝からひとしきり愛し合った後、バタバタと、彼は帰っていった。
“朝はバタバタしてゴメンね 電車のなかは昨日がクリスマスやったって思えんぐらい普通やわ 儚いもんやな でも俺的には今までで一番幸せなクリスマスやったよ ネックレスよく似合ってた ケーキもおいしかったし 最近は週3ぐらいのペースで合ってるけど全然もっと一緒にいたい気分になる そんなわけでまた明日に 年賀状作りや~。人のこと言えんけど”
今までで一番幸せなクリスマス……。
クリスマス嫌いの彼にそう思わせることができたのが、何より幸せに感じた。
もっと一緒にいたい気分になる……。
アタシが先日 、“たとえ今よりも会える頻度が減ったとしても、ずっと好きだよ”なんて書いて送ったから、こんなふうに言うのかもしれない。
“昨日は忘年会で遅くなったのに、来てくれて、待っててくれてありがとね アタシにとっても今までで一番幸せなクリスマスでした おいしいケーキも一緒に食べられたし ネックレス&シュシュのサプライズにはビックリした~ 吊ってあったし(笑) ホントありがとう 大切に使わせてもらうね 私も、本心はもっとずっと一緒にいたいよ いつも遠いところ来てくれて、気遣ってくれて感謝しています。そしたらまた明日ね。今日も仕事頑張って! 間に合うことを祈ってます”
お互いの心に、思い出として深く刻まれたクリスマスとなった。