玉響 ひとときの空想Time -10ページ目

玉響 ひとときの空想Time

未熟で拙い文章ですが、読んでくださった方、何らかのコメントを頂けると嬉しく思います。

指輪  質屋にて(2)



 またの機会がやって来ました。

 たまーに私の話、挟むといいでしょ?好きでしょ?こんな私みたいな人も。ふふふ。

 えっとぉ~、続きのお話は、っと…。ちょっとお待ち下さいね。

 あ!そうそう!

 この世の終わりのような顔をした男がやって来た、そのお話ですね。


 その方はお昼の、そうでしたね…1時頃にやって来た方でした。
年齢はざっと見た感じで30代前半と言ったところでしょうか。
カジュアルな服装がお似合いの、中肉中背で、優しそうなお顔立ちでしたが、その日の表情は、もー世も末のような悲壮感漂うお顔をしていまして、自動ドアが開いた瞬間から背中にドロドロした何かをしょっておいでのような、「何か悪いもの」を私も感じてしまいました。

いやね、たまにいらっしゃるので、こう言ったお客様もね。

このお店は入ると銀行の窓口のような感じで、買取の受付が3つあるんですよ。
私はね、一応オーナーですから、そう頻繁に受付にはいないんですけどね。
まー職員の都合なんかもありますから、足りない時は私も受付をするんですよねー。
まあ、この道40年ですからね、負けませんよ。ふっふっふ。

で、ですね、その男の顔を見た瞬間、

「あ!来たな、これ!」

と思ったわけですよ。

直感でそう思いましたから、私はスッとその方の側に行って奥の個室にご案内したのでございます。

「こちらへどうぞ」

まさか個室に案内されるとは思ってもみなかったのでしょう。
鳩が豆鉄砲くらったように驚いてらっしゃいましたもんねえ。

「え?あの…個室ですか?」

「個室の方がよろしいかと思いまして」

ヨーロッパ調の家具で揃えられた、少しリッチな感じのするこの個室は、まあ、普段ならばVIPなお客様をお通しするお部屋なんですけどね。

その男性はクッションの良いソファーに腰を掛けると、座り心地にすこし驚いた風な表情を見せると、ポールスミスのボディバッグからジュエリーケースを二つ取り出して私の前に置きました。

あら、またですね。

「こちらの2点でございますか?」

「…2点と言うのか、3点と言うのか」

「では、失礼いたします」

片方のケースを開けると、1カラットまではいかないけれど、うーん、0.7~0.8カラットはありそうな婚約指輪が顔を覗かせました。
ざっと見て70~80万でご購入されたのでしょう。
ちょっと頑張りましたよね。うんうん。
もう片方は結婚指輪ですね。
プラチナのシンプルなリングが仲良く二つ並んでいました。
傷もなく、新品同様ではないですか。
などと思いながら鑑定していますと、急にその男性はシクシク泣き始めました。

「あ、あの、どうなさいましたか?」

と、一応聞いてみますが、このパターンは結婚式前に逃げられたパターンですね。

「本当は今月の、今週の日曜、大安の日に結婚式を挙げる予定だったんです」

ほほう。それはまだショックから立ち直れませんな。

「お話していただいていいですよ。お聞きしますから」

はい、ここで営業スマイルです!

「少し前からおかしいとは感じていたんですよ。話も上の空と言うのか」

私は頷きながら話に耳を傾けます。

「マリッジブルーって言うのだろうかな?とか思っていたんです。なのに…」

なのに?!

「彼女、昔の男が忘れられなかったんですね。5年前に別れた男と連絡取っていたみたいなんです」

忘れられない昔の男ですか…。
最強な敵かもしれませんな。
遠い目。

「僕はその5年前に別れた男に負けました」

男性はまたシクシク泣き始めました。よほど好きだったのでしょうな。まあ、そりゃそうかー。

「ここには、いろいろな方がいろいろな品物を持ってきてくださいます。あなた様のようなお方も少なくはありません」

「そ、そうなんですかね」

「それに、こう考えてみてください。結婚する前でよかったじゃないですか。結婚してから、そんな事になったら、果たして今よりも許せるでしょうかね?」

そんな事考えたこともなかった、と言う風な表情をして暫くの間俯いて考えているようでした。
そして小さく頷くと私に顔を向けて

「そうですよね」

とお答えになりました。

ええ!ここでにっこりと営業スマイルです!

「この婚約指輪はとてもいいものですね。まだ指も通してない、本当に新品ですが、結婚関係のものの買取価格はどうしても低くなってしまいます。理由はお分かりですよね?」

「ええ」

「そこでご提案なのですが…。結婚指輪は買い取らせていただいて、婚約指輪はリフォームにお出ししてみてはいかがでしょうか」

「リフォームですか?しかし…」

「リフォームと言うのですか…リング部分を取ってもらい、ルース…裸石のみ…ダイヤモンドのみお持ち頂いてはいかがかと」

「どうしてですか?」

「これから貴方様は必ず婚期が再びやって来ることでしょう。今はそう思えなくとも、その彼女様よりもきっともっと貴方様に合った方がどこかに居られるのです。間違いないです。ですから、その彼女とは結ばれなかったのですよ」

男性は黙り込んで私の話に耳を傾けておいででした。

「このダイヤはその時の為にとっておいたらよろしいかと思いますよ。その時にはこのダイヤを中心にして小さいダイヤを買い足してデザインしてもらったら素敵な婚約指輪になると思いますよ。私からのご提案ですが、いかがでしょう?」

「そんなことも出来るんですね」

「ええ、あのですね、私の店と提携しているジュエリーショップがございましてね…ええ、お祓いもセットでしてくれるんですよ」

結局その男性は私の提案通りに、結婚指輪はお売りになられ、婚約指輪はリフォームにお出しになり、ルースとしてお持ちになることになりました。



 その男性の帰り際の表情は、来た時よりも明るくなっておられましたね。

 あーえがった、えがった。



え?

また聞きたいですか?

こんな私のお話を、ですか?


あ、お客さんが来てしまったので、またの機会ですね。