今のゆいと小百合の会話には、どんな話でも引っ越しのことに繋がる。
小百合は今まで使っていたゆいから貰った時計をスタジオのバイト専用で使いたいと言った。その話の流れから、ゆいは引っ越した際のベッドの話を始めた。
以前から小百合はこのベッドがいいと言ってくれたが、ゆいはもう少し広い方がいいと言う。そして探しに行く店は決めているとも話した。
「ここから少し離れた場所に、アウトレットの家具屋さんがあるの。全部未使用で値段が安いから、探しに行くにはいいかなって。どうかな?今のベッドも引き取ってくれるから」
「行ったことあるの?」
「あるよ。小百合にどう?って言ったあのデスクはその店で買ったの。ホントはさ、ベッドも一緒に持って行きたかったけど、今度の部屋には狭いかなって」
「そうだったんだね。うん、いいよ。良いのが見つかるといいなぁ」
話をしながら顔のお手入れをし、冷蔵庫を開けた。
「明日は遅くならない?晩ご飯の仕度・・・」
「遅くても7時には上がれる!最近小百合のご飯ちゃんと食べてない。明日は早く帰るから」
「分かった。来週の日曜はってまだ先だけど買い物行きたい。そろそろ米買いたいから」
「予定は早い方がいい。日曜はそうしよう」
明日は通常通りの起床。小百合は目覚ましのセットをして、やっとベッドに入った。眠たかったはずなのに、横になると目が冴える。
ゆいはスマホの充電をして小百合の横に入ると、大きなあくびと伸びをし仰向けのまま目を閉じた。
「もう寝る?」
「寝るけど、何か話したいことある?どうしたの?」
ゆいは小百合の方へ体を向け、小百合の手を取った。小百合の話は大したことないこと。眠そうなゆいに話すことじゃない。
「大丈夫。ちょっとした世間話みたいなことだから。電気消すね」
「小百合?どんな話だって聞きたいよ」
じゃ~ということで、小百合は昨日、課題の一休みで見ていた御用達のサイトを見ていた時のことを話した。
最近は、別れ話に目が行くようになり、同棲中のカップルの話題を読むという。そこには些細な理由もあれば、どうにもならない理由もある。その中に、自分も経験があることが載っていて、それは同棲ならではなことだと小百合は自分から言い出したことなのに半分恥ずかしそうに話した。
「ゆい、覚えてるかな?ほらっ、前にさ私がトイレに入った時、臭いを消さないで出て慌てた時にさ、ゆいは嫌な顔しないでバラの香りだったら逆に怖いよねって。逆に便秘なの?って心配してくれた。恥ずかしがることないって。私覚えてて。すっごく恥ずかしかったけど、一緒に暮らすってこういうことなんだなって思ったの」
何の話かと思えば。ゆいもクリアではないが言ったことは覚えていた。小百合に恥ずかしい思いはさせたくない。自分だって忘れてしまうことがある。そんなことはお互い様で一言ゴメンだけでいい。
「そんなことあったね。最近は便秘の話はしないけど快腸?便秘が続くとおならも出ちゃうし」
「うん、ゆいもそう?」
「私、撮影中がヤバい。現場が喧しいから音は良いけど臭いがね・・・ってうちらどんな会話してんの?」
でもこんな話も出来るようになったことは二人の関係も順調だということ。それが原因で別れ話になる記事を読んだ小百合は、ちょっと笑ってゆいの胸に頬を寄せた。
「私はゆいの一言で立ち直れたの。それをねちょっと思い出したって話」
「そっかぁ。どんな理由があったって私は小百合を嫌いになんかならないよ」
そんなことはないと思いたいが、たとえ、小百合が何か裏切るようなことをしても。