亜衣から突然聞かれたゆいの話。ゆいが訪れたバーの話を振られ、ゆいから全部聞きそして全部覚えていたが、そのほとんどを語らず適当に返事をした。席に着きスマホを出そうとカバンを開ける。カバンの中にはお昼が楽しみなお弁当が鎮座している。傾かないように教本を土台にして中でしっかりと納まっていて、この授業が終われば入ってるかもしれないお手紙とお弁当が待っている。その時間を楽しみに待っている小百合はゆいに、亜衣との話をLINEで伝えた。
ロケに出ているゆいの撮影は順調。モデルの彼女の顔立ちが整い過ぎて撮り直しが要らないほど。顔の角度も自分を知っているのか、見せ方が完璧だ。
「衣装チェンジ入ります」
その間、ゆいたちは少しの休憩をもらい、せっかくだからと港の写真を撮り始めた。
「そうだ。天気もいいし小百合に送ってあげよう」
カバンからスマホを出すと画面には小百合からのLINEが。
読んだゆいは写真を撮り、返事と一緒に送った。
「何で今頃聞いてきたんだろう。最近店に寄ったのかな。でも今日のことは黙っててくれてありがとうだけど、小百合も返事しにくかったよね」
「ゆいちゃん、この調子だと昼には終われそうだね」
あきも写真を撮ったのか、満足そうに見ながら話し掛けてきた。
「彼女、ちょっと場慣れしてるみたいでさ。そのおかげっていうか」
時々、全く指示をしなくてもこっちが思うような表情をしてくれる芸能人がいたりする。楽でいいが面白くない。
『こんな感じで撮ってみようか』
ゆいが身振り手振りで教えたり、そんな意思疎通ができないのはつまらないし、面白くない。撮影は楽しくがモットー。やっぱり完璧すぎるのは好きじゃない。
「ゆいちゃん、行こう」
最後はカーキー色ワンピースに着替え、ソフトクリームを食べるシーン。これがまた表情が豊か。
『甘い顔』『冷たい顔』『美味しい顔』『欲しい?顔』『あげないよ❤顔』
こっちが何も言わなくても全てが完璧。こんな人を撮るのは初めて。
横でレフ版を当てているあきも感心していた。
ゆいは彼女が食べ切るまでずっと撮っていてその間もたくさんの表情を見せてくれた。
「は~い♪一緒に見ませんか?」
ゆいは彼女の隣でパソコンのモニターを一緒に見るが、間近で見れば見るほどきれいな人。こんなに肌がきれいな人を見たのはやっぱり初めて。
小百合が大学のトイレで初めて美穂を見かけた時、こんな感じで騒いでいたことを思い出す。きっとこんな感じに見えたのかと、隣にいる彼女を見て思った。
「女性カメラマンに撮ってもらったの初めてだったんです。ありがとうございます!オフショット、インスタに上げてもいいですか?」
「はい、じゃ~そしたらですね・・・」
ゆいは数枚選び、彼女のスマホに転送した。
「葉山さん、インスタやってますか?タグも一緒につけたいんですけど」
「良いんですか?ありがとうございます♪」
ほとんど開けることのないインスタ。そう言いながら久しぶりに開けると、二人だけのアカウントに通知が来ていた。
『小百合だ!いつUPしたんだろう。全然気付かなかった。ヤバい!』
彼女にアカウントを教えると、後ろを向いては小百合が投稿した写真を開けた。
『ん?』
それは先週の日曜、朝日を撮るゆいの横顔の写真。
写真と一緒に日曜の感想が入っていた。凄く楽しかったこと、出会った時のこと。最後には『ゆいに出会えてよかった』と締めくくってあった。
「もう一週間じゃん!」
「ん?ゆいちゃん、何が一週間なの?もう撤収するよ」
「あ~ゴメン」
ゆいは彼女のインスタをフォローした後、担当さんたちと写真を確認し、今日の日報にサインをもらった。
撮影が無事に終わったことを、ゆいは瞳に報告。昨日瞳がゆいにサブをお願いした理由を何となく察した。