待ちに待った29日のイベントもあっという間に終わってしまった。
何だか去年よりも少し盛り上がりに欠けたような気がしたことを二人は何となく感じていた。
それは、ただ単に出会った時のことを振り返ってたくさん話をしたから。
記念日だからって、何もイチャつくとか、いきなりベッドへ❤とか。そうなればドキドキした時間を過ごせたが、お互いそこまで思わなかったのはシャワーを浴びなかったせい。
撮影が終わった後、ゆいは小百合に『汗だくだから帰ったらシャワーしたい』と言った。
しかし、上がり時間少し遅く、半分慌てて神社へ行きケーキを取りに行ったので、結局汗でべた付いたまま食事をし、ケーキを食べ。
やっとシャワーを浴びサッパリしても、この後数時間後には家を出なければならない。
めんどくさいゆいは、シャツに下着のまま出てきては、アイロンがけをしてくれる小百合の隣に座った。
「ゆい~何か着なよ。襲っちゃうよ」
「いいよ❤・・・ゴメン。そんな顔しないで♪夜も遅いのにアイロンお願いしちゃって、何だか思い付きでこんなことしちゃってごめんね」
「眠気を取るにはちょうどいいよ。それに、ゆいの服をアイロン掛け出来るのは私しかいないんだもん。でも、ちゃんと取ってあったんだね」
服が熱でテカらないようにハンカチで押さえながら頑張ってくれる小百合に、ゆいはもっとそばへ寄った。
「ゆい~危ないよ。なに?」
「これでさ、小百合が制服着たらなって。まだあるって言ってたよね?でも」
「でも?」
「いやぁ~可愛かったなぁって。今でも小百合の制服姿、印象は凄く強いから」
「可愛いって言ってくれるのは嬉しいけど、もぉニヤニヤしない!はい、一応シワは取れたよ」
「ありがと~❤小百合がシャワーしてる間に小百合の服考えとく。クローゼット開けていい?」
「うん。どこ開けても構わないから」
ゆいがどんなコーディネートをしてくれるのかを楽しみにしながら、小百合は先に歯磨きを始めた。
そして鏡を見ながら、ゆいがあの時の服装を教えてくれた時のことを振り返る。
「何でだろう?」
着るにはちょうど今時季。去年も今年も着られたはず。なのに持っていたことも忘れていたかのようにクローゼットを引っ掻き回して出してきた。明らかに仕舞いっぱなしだった。どうして着なかったんだろうか。
着たくない事情でもあった?だったら捨てるはず。
小百合は歯ブラシを銜えたままゆいのところへ行き、何故あの服を着なかったのかハッキリと聞いた。
小百合の服を真剣に選んでいたゆいは、小百合の質問に手が止まる。
「何で?って言われても。特に理由はないけど、小百合と暮らすのにさ、小百合の服をしまう場所を空けたりして、その頃まだ着るような季節じゃなかったし。一旦ボックスに入れちゃうと忘れちゃうから。それに服は他にもあるしさ。それだけだけど?早くシャワーしてきな。私は今、小百合の服選びで忙しいんだから♪」
ゆいの口ぶりからして本当に忘れたのかと察するが、言われてみれば小百合自身も一度だけ袖を通しただけでタンスの肥やしになっている服がたくさんある。そう言うことなのかもしれない。それでも小百合に言われ当時着ていた服を覚えてるなど、普通は考えられない。小百合もそれ以上の追及はせず、歯磨きを終えシャワーを浴びた。
まだ小百合の服を選んでるゆいは、ハンガーに掛けてある服を見て『ゴメンね』と独り言を言う。
ゆいが当時着ていた服を覚えていた理由は、初めて小百合に出会った時の衝撃が強すぎたから。着なかった理由は自分にとって思い入れのある服だから、大事に取っておきたかったから。着てしまえば生地が傷んでしまい、いつかは着れなくなってしまうことが嫌だったから。
「言えないよ、そんなこと。絶対に呆れるから」