最初は後ろにいた…
気づいたら横に並んでいて…
ふと前を見るとあなたの背中がみえた…
そしていつの間にか先に旅立ってしまう…
太陽と月…いつか誰かが言い出したそれ
私が太陽で彼女が月…ぴったりだなんて周りはもてはやしたけど…そうじゃない
みんな私達をわかっていない
「玲奈ちゃん」
ベッドの上でこちらに背中を向けて携帯とにらめっこしている彼女を
聞こえるかどうかわからないような大きさの声で呼ぶ
「んー?…なに?珠理奈」
上の空の返事がかえってくる…もちろん視線は携帯に向いたまま
いつもこんな感じ…だけどこれは玲奈ちゃんが私に遠慮してないってことだから
ちょっぴり優越感を感じられる瞬間でもある
「………」
言いたいことはたくさんある
でも上手く言葉にできなくて口を噤んだ
呼んでおいて一向に話を切り出さない私が気に障ったのか
玲奈ちゃんは携帯から目をはずしてこちらに視線を向けた
「どうしたの?何か言いたいことがあるんじゃないの?」
「……本当にいなくなるの?…」
刺すように向けられる視線をどうにかしたくて
ポロリ…と出たのは言い出せなかった本当の気持ち
それを聞いた玲奈ちゃんはきょとん…とした顔をして
ベッドに横たえていた体を起こした
ベッドがぎし…と少し音を立てる
「うん…卒業するからね…でも一生会えないわけじゃないよ」
そのうち仕事で共演するかもしれないし…と要件はそれだけ?と言わんばかりに彼女はまた視線を携帯に写しシュ…シュ…と画面に指を走らせる
違う…そういうことじゃないってわかってるくせにわからないふりをする…
いつもいつもそう…本当にずるい…ずるい…
「ずるい…」
またしてもポロリとこぼれたその言葉にふと玲奈の指が止まる
いつもの玲奈ならこれくらいのことで指を止めたりしない
ふと…指を止めてしまったのはその声があまりにも弱弱しく震えていたから
「わかっててそうやっていうんだ…玲奈ちゃん…ずるいよ」
次から次へと溢れる涙を服の裾で拭いもせず
玲奈の元へ急ぎ足で近づき肩を少し強引に押してベッドに押し倒す
その拍子に玲奈が持っていた携帯は手から離れて少し離れた床に落ちた
あ…後で拾いに行かなきゃ…なんて
珠理奈に押し倒されているこの状況でも玲奈の頭にはそんなのんきなことしか浮かばない
ポトリ…ポトリ…
そんな玲奈を咎めるように玲奈の顔に小さく冷たい雫が一つ…また一つと落ちてくる
「私…どうしたらいいかわからないよ…玲奈ちゃんがいなくなるなんて想像もできない!
隣を見ても前を見ても後ろを見ても玲奈ちゃんがいないなんて…玲奈ちゃんの場所に
ほかの誰かが立つなんてやだよ…ずっと…ずっと一緒にいたいのに」
抑えてきた気持ちが堰を切ったように溢れ出す
なんて子どもじみてるんだろう…と自分で言って改めて思った
もう高校生にもなり少しは大人になれたと思っていたのに蓋を開けてみると
意見が通らないと癇癪を起す小さな子どものよう…
月は太陽がないと輝くことができない…
だから違う…玲奈ちゃんに私が必要なんじゃなく…私に玲奈ちゃんが必要なんだ
だから私のとっての太陽は玲奈ちゃんで私は決して太陽なんかじゃない…
「もう…おおげさなんだから…きっと大丈夫私がいなくてもみんながいる。一人ぼっちじゃないでしょ?私は珠理奈がいてくれたからここまで咲くことができた…私にとって珠理奈は太陽だったよ」
まあ…もうすぐ枯れるけどね…と玲奈ちゃんは自分の顔に落ちた雫をそっと拭いケラケラと
笑った。二人ともお互いを太陽と思っていたのはとても意外で自分も玲奈の太陽となりえていたことが知れて正直とてもうれしかった。それはもう飛び上がるほどに…がしかし…
さすがに恋人なのに…この扱いはひどくない?もう少しさみしがってくれてもいいのに…
自分はこんなにも寂しくて取り乱しているのに何の焦りも悲しみも見えない玲奈を見て恥ずかしくなり少しずつ怒りが込み上げてきた
「なんでそこまで玲奈ちゃんは余裕があるの?私と離れても別に平気なの?」
正直一番私が聞きたい本音のところだった
しかしその言葉を聞いた玲奈は何だそんなこと?と言わんばかりにまたくすくすと笑い始めた
珠理奈は真面目に答えない玲奈に対してム…とした表情になったが
それに気が付いた玲奈がそっと珠理奈の頬に手を当てて
『だって珠理奈は私が何処で咲いても枯れても落ちてもすべてをあいしてくれるでしょう?』
だから何も辛くも怖くもないの
と花がほころぶように笑った
その言葉をきいた瞬間珠理奈は目を見開いて固まった
ずるい人…本当にずるい…私はきっと一生彼女にはかなわない
諦めにも似た感情に苦笑いし珠理奈も玲奈の頬に手を添えて言う
『どこにいても咲いていても枯れても玲奈ちゃんの全てを愛し続けるよ』
どちらからともなくしたキスはすこししょっぱい涙の味がした