「はあ…はあ…」
廃墟ビルの静かな空間の中で自分の呼吸の音がやたらと大きく聞こえる
走りすぎて肺が痛い
足が悲鳴を上げている
でも止まれない…今止まったらそれが最後そこでおしまい
後ろから悪魔がやってくる音がする
「玲奈ちゃーん、今行くからそこで待っててね?」
下から空間に反響しながら届く無邪気な声と笑いに寒気が走った
いやいやいや…絶対に待たないから!なに言ってるのあの子
止まれって言って止まるんだったら世の中に警察は要らない
力では分が悪いにしても
体力には自信があるのになんでこんなに余裕がないのか
階段を必死に駆け上がり突き当りの部屋に飛び込む
「あれ?玲奈ちゃんどこー?」
「………」
部屋の外遠くから珠理奈の声が聞こえる
音で位置を確認しつつ少し荒くなっている息を整えるどころか殺す
あの野生児の勘の前では少しの息だけでも場所がばれてしまう
廃棄されていたままになっているデスクを盾に
珠理奈が入ってくるであろう扉に意識を集中させる
「………」
「こっちだよ玲奈ちゃん」
私は反射的に声が飛んできた方向に銃を撃った
パリン…と何か割れる音がして状況を把握しようと大きく後ろへ飛びのく
視界の端で私と同じように黒い影が大きく飛びのくのが分かって
着地すると同時にそこに向かって銃口を向ける
「あはは!すごい玲奈ちゃん!私も大概だけど玲奈ちゃんも十分に化け物だよねー」
「全然嬉しくないし、あなたと一緒にしないで」
どうやら彼女は私のいる場所を把握して扉からではなく
外から壁を伝って窓から侵入したようだ
高層ビルのこの高さからでは落ちたら命はないというのに
度胸があるのが死に急ぎなのか
おそらく後者だ
「もっと遊ぼうよ。私と渡り合えるのなんて玲奈ちゃんくらいしかいないんだから」
「そんなの知らないし、私貴方に付き合ってあげるほど暇じゃない」
お互いに銃口を向けあったまま動かない…否動けない
最初に動いたほうがやられるだろう
それぐらいに私たちの実力はいい感じに均衡してしまっている
「好きだよ玲奈ちゃん」
「私は貴方のことが好きじゃない」
そういった瞬間二人同時に動き出す
珠理奈が私に向かって突っ込んでくるのに合わせて
引き金を引くがすべてよけられ
私の顔を狙って突き出された拳を左にいなし
珠理奈のこめかみに銃を打ち付ける
「痛った!!ちょ!玲奈ちゃん顔はひどい…よ!」
「あら、失礼あまりにもきれいなおでこだったから当てたくなっちゃった」
「そういう減らず口叩いてると痛い目見るよ玲奈ちゃん」
打たれたおでこをさすりながら右足の蹴りを放ってくる
目くらまし程度じゃびくともしない。相変わらず油断ならないやつ
受け止めた左腕がジンジンしびれる
「右が愚かになってるよ」
僅かに隙間が空いた右側から鋭い肘鉄が飛んでくる
ごきっ…と耳に嫌な音が届き食いしばるように声を漏らした
あ…これ骨イッたななんてどこか他人事のように思い
何とか体制を立て直そうと後ろに数歩後退する
「チェックメイト」
気が付いたら銃口が目の前にあった
時が一瞬でスローモーションのようにゆっくりと流れる
産まれたときから初めての任務、走馬燈が瞬間的に流れる
何度か味わった死の瞬かn…!?
「ひゃ!!」
「は?」
ガウン…と二人と1つの衝撃音が同時に響き渡った
視界が90度変わって天井が見える
倒れたと分かった瞬間に無意識で珠理奈の足に糸を巻き付け引き倒し
正面に倒れこんできた珠理奈の顔に銃口を突きつけた
同時に私の胸元にも銃が突きつけられる
「え?…ちょ、ぶは!あはは!お腹痛い!撃つ瞬間に足元の段差に躓いて転ぶってどういうこと」
「うるさい。黙らないと撃つわよ」
「いいよ!そんなに照れなくても!ぷぷ」
「よし。撃つ。目を閉じて歯を食いしばりなさい。あの世への招待券をプレゼントしてあげる」
「分かった。分かりましたすみません。もう、可愛いなー玲奈ちゃんは」
向かい合って寝そべって銃を突きつけ合っているとは思えない会話に
思わずため息が出そうになる
こんな減らず口を叩いているがお互いに撃つに撃てない
「ふふ。今回も楽しいね玲奈ちゃん」
「私はまったく楽しくない」
「ほんと天邪鬼なんだから~私と殺しあってるときに自分の顔見てみなよ」
「余計なお世話よ。毎回突っかかってくるのはあなたでしょう?」
ずきり…と脇腹が痛み額から冷や汗が一筋流れる
「だって、私玲奈ちゃん好きだから」
今までヘラヘラしていた顔が真剣な顔になる
「私は嫌い。あなたのこと」
「玲奈ちゃんは好きだよ。私のこと」
ぐっとトリガーにかけている指に力が入る
「ずいぶんとうぬぼれているのね。なら一緒に地獄にでも落ちてもらおうかしら」
「玲奈ちゃんとならどこへでも」
何処までもぶれない金色の瞳を正面から見つめる
なんなら今から一緒に行く?と笑いながら聞いてくる
どこまで真剣なのか分からない。いつもからかってくるだけのくせに
こういう現実味の話はいつも真剣だ
沈黙が空間を包む
ピッーーー…
突然耳元に不快な電子音が響き眉間に皺が寄る
本部から連絡ように渡されているイヤホンから聞こえる電子音
そこから聞こえるモールス信号に一瞬耳を疑った
珠理奈に目を向けると同じような顔が目の前にもあって
鏡を見ているようで少し笑える
どうやら内容は私と同じようだ
これからのことを考えるて盛大にため息を一つ吐いて
スッと息を大きく吸う
「「3.2.1……!」」
二人同時のカウントダウンを合図にお互いの照準を一気にずらす
何らかの邪魔が入りこの戯れを中断しなければならないときのルールのようなもの
無駄に弾を撃ちたくない私と、次も遊びたい珠理奈の利害の一致
毎回わざと私の仕事場の近くにブッキングしてくるからこっちは迷惑極まりない
銃を懐にしまいくるりと珠理奈がこちらを向く
「次の仕事一緒だね♪楽しみ」
こっちは絶望だっつーの。
銃をケースにしまい早々に出口へと向かう
後ろから待ってとか私を呼ぶ声とかが聞こえるけど無視
屋上への扉を蹴破ってフェンスを飛び越え淵に立ち
遅れてやってきた珠理奈にフェンス越しに向き合う
「あなたと一緒に地獄だなんてやっぱり死んでもごめんだわ」
そういい捨てて屋上から飛び降りる
手にはめてある装置で壁に糸を刺し降りていく
珠理奈が何か言っていたような気がするけどどうでもいい
ただ最後の私に言われた時のポカーンとした顔は傑作だった
「ざまぁみろ」
下から吹き付ける強風の中
口の端がそっと歪むのが分かった
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・玲奈
珠理奈とは別組織の殺し屋
基本的に依頼は選ぶタイプ
糸を使った繊細な手口の暗殺が得意
あまりに静かで自然な殺しのため殺された側は
自分が死んでいることにさえしばらく気づかないほど
珠理奈とはたまたまターゲットがブッキングした時
取り合いに競り勝ったことからたびたび付きまとわれることになった
本人は迷惑極まりないと言ってはいるが実力が拮抗している相手との
殺し合いは正直楽しいと思っている
珠理奈自体はあまり好きではない
・珠理奈
玲奈と別組織の殺し屋
基本的に来た仕事はなんでも引き受ける
ナイフや鉤爪など接近戦が得意
大体は一撃必殺だがたまにいたぶって遊ぶのが癖
殺人狂というよりかは戦闘狂で組織に入ったのも
自分と拮抗する相手を見つけるため
玲奈のことが好きで本気でいつか殺し愛をしたいと思っている
