その小鳥は空を飛ぶことが大好きでした。空を飛んで、そこから下を見下ろすと、住処である森のスミズミまでが、ハッキリと見えて、とても良い気分がするのでした。


「おや、あそこでは、いつも恐ろしいクマさんがイネムリをしているぞ、あっちでは、リスが木の実を岩のスキマにかくしているな」


 空からは、森の動物たちがなにをしているのかが、すべてまる見えでした。

 

 小鳥はある夜、大好きな空を飛んでいると、森からずっと遠くはなれた場所に、黄色いキラキラとキラメク明かりがあることに気がつきました。それは人間という生き物が住んでいる場所から溢れる出る光でした。


 小鳥は、人間という生き物が夜でも、光の中で生きているということは他の鳥から聞いて知っていましたが、実際にその明かりを自分の目で見るのは初めてでした。

 

 小鳥は、その夜の月よりも明るく美しい光に心をうばわれました。そして、あの美しい光の上を飛んでみたいと思ったのです。

 

 小鳥はその夜、森を旅立ち、黄色い光のあふれる場所まで向かうことにしました。

 

 遠くの光へ向かって飛んでいく途中、小鳥は「村」という人間のすみかの上を通りました。村は、ポツリポツリとわずかなオレンジの街灯が道をてらしているだけで、とても静かな場所でした。人間の住処である建物もみな木で作られており、とくべつ美しいものはなにもありませんでした。

 

小鳥は、村を見下ろしながら、ここはキラキラとした光はあまりないけれど、自分の住んでいる森とよく似ていて安心できる場所だなと思いました。そして今は夜でもたくさんの光の中で生活している人間も、もしかしたら昔は、森の中に住み、自分たちと同じ暗がりで生活していたのかもしれないと考えて少しオカシクなりました。


村を通りすぎ、たどり着いたのは人間が「街」とよんでいる場所でした。それはまさに小鳥が森から見た、美しい黄色い光りがあふれる場所でした。

 

「なんてキレイなんだ!」


 小鳥は思わず、そんな言葉を口にします。

 

 街には宝石のような光が所かまわず溢れていて、建物は森の木々よりもはるかに高く、空を飛んでいる小鳥ですら、見上げるほどでした。そして建物の中にも、やっぱり黄色い光が灯っていました。光の中には、たくさんの人間が働いていたり家族と笑いあったりしていました。

 

 小鳥は街を見て、こんな美しい光の芸術を作りだせる人間という生き物はなんてすばらしいんだと思いました。


「僕には、この黄色い光がどんな仕掛けで光っているのか分からない、それに、この高い建物がどうやって作られたのかも分からない。こんな分からない物を作りだせる人間は、きっとすごく賢く、りっぱな生き物なのだろな」

 

 小鳥は街を見れば見るほど、人間の作りだした美しい明かりをもっと見てみたいと思うようになりました。すると、そこに偶然一羽のワタリドリがやって来ました。小鳥はワタリドリにたずねます。


「ワタリドリさん、ワタリドリさんは世界中を飛んでいるよね? 僕はもっともっと人間の作った明るい光を見てみたいんだ。どこかにそんな場所を知らないかい?」


 小鳥の言葉を聞いたワタリドリは少しだけ考えこんだ後こう言いました。


「そんな、人間の作りだした明かりが見たいのなら海をこえて、ここからずっと西に行くといいよ。そこには人間の作りだした光があふれているよ……」


 そう口にしたワタリドリの顔はなんだかとても怯えている様子でした。

 

 小鳥は、彼がなぜそんな顔をするのか分からず、ワタリドリは自分の見つけたキレイな光を僕に教えるのがイヤだったのかな?と思いました。

 

 海をこえるのは、小さな羽の小鳥には大変なことでしたが、人間の作りだした光が見えると思うと、少しも苦にはなりませんでした。


 やがて小鳥は海をこえて陸地にたどり着きました。そして、いくつかの高い山や、なにもない草原をこえると小鳥は遠くの方で赤い何かがチカチカと光るのを見つけました。


「もしかしてあの光がワタリドリさんの言っていた人間の作りだした光なのかな!?」


 その赤い光はある所では小さくチラチラと光り、またある所では大きく光っていました。それは、まるで夕日のように真っ赤な光でした。


 小鳥はもう居ても立ってもいられなくなり、急いで赤い光りに向かって一直線に飛びました。


「街もキレイな黄色い光をしていたけれど、あの赤い光もきっとキレイにちがいないぞ。早く見てみたいな!」


 けれどそう思って急いだ小鳥が見たものは、街で見たような美しい光景ではありませんでした。


 夕日のように赤い光の正体、それは人間の放った鉄砲の火薬の光や、ミサイルの爆発や、建物や家が燃える炎の光りだったのです。


 それは「戦争」という人間同士の争いが作りだす光でした。

 

 戦争が行われている場所では赤い光がいたる所で溢れており、その光は消えることがありません。


その赤い光の中では、大人や子ども、男女にかかわらず、多くの人が戦って、血を流し、泣いていました。そして、たくさんの人が倒れていました……


小鳥は赤い光に照らされた目の前の光景がとても怖くなりました。


「こんなの僕が見たかった光じゃない……」


 小鳥はその恐ろしい赤い光の光景に、怖くて動けなくなりました。それから、少ししたあと自分のすぐ近くで爆弾がボンと爆発したとき小鳥はようやく我に返り、いそいで住処の森へと逃げ帰ったのでした。


 森への帰り道、小鳥はただただ、あの赤い光が怖くて、人間同士の争いが怖くて、気がつけばポロポロとナミダをこぼして泣いていました。


 森へ帰った小鳥はそれからもう二度と人間の住む場所へいきませんでした。けれども時折、森から遠くの方で光る黄色い街の光を見ることはありました。しかし、どれだけその黄色い光を眺めても、小鳥はもう初めて見たときのように、それを美しいだけのものとは思えなくなっていました。


「人間はあんなにキレイな光を作ることができる。それなのにどうして、恐ろしく争うのだろう。あの黄色くキラメク光を作ることより、仲間同士で争わない方法をみつけることの方がよっぽど簡単なはずなのに……」


 小鳥はマチの黄色い光りを見るたびに、赤い光の中で泣いていた人々のことを思いだし胸が痛みました。

 

 そして、あの黄色い光りの中にはなんとなく、戦争の赤い光がまじっているような気がして悲しくなるのでした。


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