スタートから暫く道は下り傾向なので、テンションが上がってる状態もプラスされ、思いのほかスピードを出しすぎてしまう。だから、「遅くない?」くらい抑えてというのが完走への第一歩らしい。
とりあえず、キロ5分半程度で走る。
バシバシ抜かれるが、あいつらは最後までもたない。我慢して、後半スパートだ!
そう言い聞かせてペースを守る。
5キロを過ぎて、寒さで感覚が無くなってた足先も、感覚が戻ってきた。とても快調。っていうか、余裕やん。
10キロを過ぎる。
余裕。もう少しペース上げるか。
ペースをあげれば、トイレにいけないので、今のうちにトイレに寄ることに。コース上で、ほぼ1キロごとくらいにトイレがある。10キロまでは混雑していたけれど、もうこの辺りまでくると、空いていた。ロスも2分ほど。
15キロが過ぎる。
まだいける。25キロ辺りからペースアップだ。
あと10キロ…10キロ⁈
結構あるな…。
25キロからゴールまで…17キロ
…ここからスタート地点まで戻って、またここに戻ってくる。これから、そんだけ走るのか…。
そう考えた途端、急激に足が重くなってくる…。
20キロ。
まだ半分もいかないのか…。
なんだコレ…。
ハーフの看板が見えてきた。
やっと半分。
もう半分…無理だ…いや、考えないようにしよう…今更か…。
反対車線に34キロの看板が見える。そして、そこを走ってくる人もたくさんいる。
ここから浅草まで行って、また帰ってくる…浅草が28キロ辺り。6キロ走って、6キロ帰ってくる…。
もう頭の中で、そんなことばかり考えては、嫌になり、また残りを計算しては嫌になりの繰り返し。
徐々に足の付け根、モモを上げると痛みが出てきた。半分を過ぎたばかりなのに…。
補給で立ち止まって、ポカリを飲む。
バナナは無理だ…パン…パン⁈無理やろ?
トマト!
一つとって、口に入れる。
冷たい…噛んでつぶすと、口いっぱいに汁が…幸せ…
もう一つ食べたい…。
もう一つ、いや二つ取って一つ口に入れた。
冷たい…噛み潰す。
幸せ~☺️
あと一つある。
もうちょっとしてから食べよう。
それにしても、この足の痛さはヤバイ…。
完走なんて余裕だろ。そう思っていた。
全く余裕なんてない。
足を上げると痛いので、歩くのが一番辛い。ゆっくりでも走ると、自然と足が前に出るので、まだ痛みもマシだ。
次の補給が近づく。
もう補給箇所は、みなが歩くので小さな混雑が出来る。
この辺りを走っている人は、もはや1分を争うようなタイムの人はいない。なので、みな歩く。
僕もドリンクを取ろうと左手を伸ばした瞬間、後方から右肩をドンとぶつかられた。その人はすいませんと、走って行った。その人を追うように赤いボールが転がっていく。
…?
…‼︎
あっ!トマトが!
あとで食べようと思ってたのに!
ドリンクの給水は3キロごとくらいにあるが、食べ物は10キロに一度だったりする…。
トマト…。噛み砕いた時の感覚が甦る。
もう一度食べたい。
早く食べたい…でも、足が痛い…前に出ない。
でも、トマトを…食べたい。
トマトが転がって行く映像が、走馬灯のように頭を駆け巡る。
そして、「また逢う日まで」が頭の中で鳴りだす…。
また逢う日まで、逢える時まで~。
別れのそのワケは、話したくない
尾崎紀世彦が歌いだす。
疲れからか、同じことばかり考える。
浅草でUターンして、反対車線を戻る。
もう、少しの登り坂でも、足が突っかかる。足が上がらない。辛い。
また逢う日まで…逢える時まで~。
まだ紀世彦が歌っている…しかも、このフレーズだけを。
辛い…。
すると、沿道で「エアーサロンパスあります!」の声が。
今までも、沿道で給水ポイントとは関係なく、水がありますとか、レモンとかチョコとか、コンビニ前ではロールケーキを切ったやつを、食べてください!とか色々なものを提供してくれていた。大会とは全く関係なく、本当にボランティアでやってくれている方が沢山いた。
そしてエアーサロンパス。とっさのことで分からなかった。過ぎてから、マジで!って気がついた。もう頭の反応も悪くなってきている。
暫くすると、またエアーサロンパスあります!の声。
もう一目散に行って、足中をスプレー。
暫くマシになるが、再び痛みで辛くなる。
そうすると、またエアーサロンパスの声。
シュー。
また暫くマシになるが、すぐに。
そして、エアーサロンパス。
もうエアサロ中毒だ。
35キロまで永遠とこれを繰り返す。
いつの間にか、紀世彦も帰ってくれて、また逢う日までから解放された。暫く彼とは逢いたくない。
ここから7キロ。
まだ7キロもある。
1キロが長い。中々進まない。
周りでは歩いてる人、道の端で筋を伸ばしてる人、ぶっ倒れて介抱してもらってる人。
タイムがどうのこうのと、本当に「マラソン」が出来る人は、全体の一割にも満たない。
それ以外は、もはやサバイバルだ。
そして、その原因もみな同じ。
理由はどうであれ、明らかに練習不足。
今日、いきなり何キロ走りますと言われたわけではない。
もう何ヶ月も前に言われ、しかも自分でエントリーしているのに、こんな感じなのだ。世の中の9割は、何とかなるでしょ。なのだ。
そして本番で、地獄を見る…。
もう、走るのも当然辛いが、歩くことも辛い。
24時間テレビのマラソンで、少しずつでも歩けばいいのに!と思っていたけれど、立ち止まる理由がこれで分かった。走れないし歩けないからだ。
足を前に出す度に、痛みがはしる。着地する度に痛みがはしる。
マラソンの本を沢山読んだけれど、小出監督の書いたやつだけは、どうなの?と思っていた。名監督みたいに言われてるけど、たまたま良い選手に当たったんだねって。
でも、今なら分かる。
ちゃんとやっとけばよかった。
辛い。
もう辛いながらも走ってゴールか、リタイアしかない。歩いてゴールは100%無理。
少しの段差も、つま先がつっかかって転びそうになる。
なんで、応募しちゃったんだろう。
辛い。
3時間そこそこで走れるんじゃないの?
昼過ぎには終わって、都内で美味いもの食べて帰ろう。
そんな週末の予定だったんじゃないのか…。
なんだこの辛さ。どうしたらいいんだろう。
進んでるのか?
さっきも38キロの看板だったじゃないか?
イオンだ…もう中で休憩したい。ペットショップ見て帰ろう、そうしよう。
…時計を見る。
39.26
なんだろう?39分ってなんの数字だ…?
あっ、39度か。体温か。
…⁈
なんでたいおんが出るんだ。
あぁ…きょりだ。そうだ、39キロか。
あと3キロか。
3キロで…いまのペース…7ふん…20びょうで…、えっと、なんだっけ…。
のこりは、39キロから3キロ引いて、36キロか。
36キロってなんだ?
あれ?なに計算してたんだ?
40キロの看板だ。
そうだ。残り2キロだ。
1キロ7分20秒のペースで走ってるから…、そうだ、あと15分くらいでゴールだ。
あと、15ふん…で、いま4じかんがすぎて、そう…あと7ふん20…。
「さあ、あと1キロ!頑張って!」
沿道の声で、我に返る。
やった。あと少し。
テレビで見たことある道だ。まさか自分が走るとは思わなかった。
最後の直線。
見たことある。
こんなの走って何が楽しいんだろう?
そう思っていたのに。
ホント、人生はわからない。
若干マラソン熱が冷めかけていたけれど、地獄の苦しみを味わいながら、なんとか完走出来て、次こそは!そういう気持ちが湧いてきた。
出てよかった。
これが無かったら、もうマラソンを走ってないかもしれない。
そして、このなんとも言えない完走感を味わえなかった。
楽しかった。
完走のメダル。
「へぇ~結構重いんだね~。」と、ようこちゃん。