50年代及び60年代からアメリカのヒット曲を追い駆けている者にとって、全米チャートの成績は気になるものである。かく言う僕は、小学生高学年ぐらいから全米チャートを追い駆けていた。1970年からはアメリカで「American Top 40」という番組が始まり、その番組をそのままFEN(Far East Network、在日米軍が放送していたラジオ。現在はAFN(American Forces Network)と改称されており、在日米軍基地のアメリカ人向けに放送されている。当時はAM電波の810KHzで流されており、普通のラジオで受信出来た)が流していた。

 

当時はビルボード誌のチャートが主流で、他にもキャッシュボックス誌、レコード・ワールド誌、ラジオ&レコーズ誌と4大チャートと呼ばれるチャート誌があったのだが、現時点ではキャッシュボックスとレコード・ワールドは廃刊となっている。このビルボード誌が初めてチャート形式でHot 100としてヒット曲の順位を発表したのは、1958年8月4日号であるらしい。この時のHot 100のチャート1位を飾ったのは、リッキー・ネルスン(Ricky Nelson 1940-1985)の「プア・リトル・フール(Poor Little Fool)」という曲だった。最近はもうチャートを追い駆けていないのだが、80年代は小林克也氏がDJをしていたTV番組「ベスト・ヒットUSA」を毎週見ていた。

 

尤もビルボード誌のこのチャートは「Hot 100」というチャートであって、ビルボード誌はそれまでもヒット曲のチャートを載せており、それは1940年に始まったらしい。ロックの創成がこれまでの説の通り、ビル・ヘイリー・アンド・ヒズ・コメッツ(Bill Hailey And His Comets)の「ロック・アラウンド・ザ・クロック(Rock Around The Clock)」だとすれば、58年のホット100チャート創設まで4年ほどの月日があり(「ロック・アラウンド・ザ・クロック」は1954年5月15日のリリース)、ロックやポップスのファンにとってはこの4年間のビルボードのチャートも無視することは出来ない(ちなみに「ロック・アラウンド・ザ・クロック」はこの前身チャートで1位に輝いている。従ってこの時のチャートからロック時代のヒット・チャート、という見方が出来る)。何しろこの4年間の間にはエルヴィス・プレスリー(Elvis Presley 1935-1977)がデビューしているのだから。

 

そのビルボード誌のHot100で、最初にNo.1に輝いた日本人アーティストは故坂本九だった。曲は勿論「上を向いて歩こう」だ。この曲は「Sukiyaki」のタイトルで全米チャートの1位となった。そして100万枚以上を売り上げ、ゴールド・レコード(当時は100万枚売れてゴールド。現在は50万枚でゴールド、100万枚でプラチナとなっている)に輝いている。

 

では最初にビルボード誌のHot100で1位になったイギリス人アーティストは誰だろう。これはアッカー・ビルク(Mr. Acker Bilk 1929-2014)というクラリネット奏者だ。彼が1961年にレコーディングした、「白い渚のブルース(Stranger On The Shore)」というインストゥルメンタル曲がイギリス人初の1位奪取曲である。この曲は62年5月26日付けのHot100で1週だけ1位に輝いた。

 

既にロックの時代が幕を開けていた62年に初めてイギリス人が1位を取ったのだが、それはロックとは程遠いクラリネットのインストゥルメンタルだったわけで、それほど当時のアメリカのヒット・チャートは自国内のアーティストの独壇場だったわけだ。つまり極端な言い方をすれば、日本で演歌や歌謡曲のみがヒットを飛ばす状況と同じだったということですよ、当時のアメリカは。それがある時点から、イギリスのアーティストたちが全米チャートを席捲するようになる。その記念すべき年は1964年だ。

 

1964年2月1日付のHot100のチャートで、ビートルズの「抱きしめたい(I Want To Hold Your Hand)」がイギリスのロック・アーティストとして初めて1位に輝く。ここから怒涛のイギリスのアーティストたちの侵攻が始まる。これがいわゆる「第一期ブリティッシュ・インヴェイジョン」と呼ばれる現象である。

 

僕がこのことを知ったのは中学時代、全米チャートを追い駆けていた時期である。そして既に「ビートルズ対ローリング・ストーンズ」の項目で書いたように、ローリング・ストーンズを追い駆けるようになっていたため、遡ってこのブリティッシュ・インヴェイジョン、つまり60年代初期に産声を上げたイギリスのロック・アーティストたちを同時に追い始めたのである。

 

これからこのブログの連載もの(?)として、この第一期ブリティッシュ・インヴェイジョンのアーティストたちを紹介して行こうと思う。もちろんこれまで通りの形式の記事と並行して行くので、このブログに興味のある方々は楽しんで頂ければと思う。今回は予告編でした。写真もなく、地味な記事で失礼しました。