夕方のカフェで待ち合わせ
あの日、
仕事帰りに夫と待ち合わせをした。
子どもが軽い風邪で休んでいて、
お迎えの必要が無かったから。
時間を気にせず、少し話せると思った。
待ち合わせ場所に着くと、
夫は外から見える席に座っていた。
遠目からでも、痩せたのが分かった。
それだけで、胸が詰まった。
改めて、
弱っているのだと実感して、
言葉が出なかった。
やっぱり、精神的に参っているんだ……。
私にも、その責任の一端はある。
離れてからずっと、
夫は寂しがっていた。
でも私は、気づかないフリをした。
「自分の責任でしょう?」
そう思うことで、
罪悪感を切り離してきた。
その方が、迷わずにいられたから。
でも、あの姿を見てしまったら。
もう、
「私には関係ない」
なんて言えなかった。
話す前から、心がズシンと重くなった。
目を伏せたまま、
向かいの席に座る。
いつもなら、
嫌味の一つは飛んでくる。
でも、
夫は無言だった。
気まずさもあったけれど。
それ以上に、
お互いの距離を感じていた。
まだ婚姻関係にあるのに、とても遠い人。
そんな風に思えた。
精神的に解放されたいと願って、
そこへ向かって突き進んできた。
それなのに。
いざ、その状況になってみると、
自分でも驚くほどの喪失感があった。
独りぼっちで、
取り残されるような。
これまでの生活が、
全部消えてしまうような。
不思議な感覚。
それでも、私には子どもがいる。
夫には、いない。
そう考えたら、
何も言えなくなった。
もっと強く出られたら、
良かったのに。
どうしても、
「可哀そう」という気持ちが消えなくて。
夫のこれからを、
心配していた。
友人に嘘をついて会いに来ていた
あの頃、
夫の友人たちは、
私を目の敵にしていた。
何かあれば、怒鳴り込んできそうな勢い。
もっとも、
私の居場所を知らなかったから、
実際に来ることは無かったけれど。
そんな状況だから、
夫は気を使ったらしい。
「買い物に行く」
そう言って、
家を出てきたようだった。
でないと、
誰かがついてきてしまう。
それより前は、
義両親から時々連絡があった。
近況を聞いて、
こちらからも、
少しだけ子どもの話をした。
でも、
お義父さんが再就職してから、
それも途絶えた。
お義母さんからも、
避けられているようで。
連絡手段を失っていた。
だから、
その日は久々の会話。
少しだけ、緊張していた。
「体は大丈夫なの?」
そう聞くと、
夫は黙ったまま。
しばらくして、
ポツリと。
「いや〜、
間違えちゃってさ」
……間違えた?
そんなこと、あるわけがない。
薬を大量に飲んでおいて、
「間違えました」
なんて。
信じられるはずがなかった。
それでも夫は、
念を押すように言った。
「寝ぼけてたんだよ」
私は、
あの日のことを想像した。
少し前まで、
家族と過ごしていた部屋。
そこに、一人きり。
家族は出て行き、
「もう戻らない」と言っている。
仕事のことも、
きっと不安だった。
全部が嫌になって、
薬を飲んでしまった。
でも、
どこかで
「生きたい」とも思った。
その、ほんの少しの差で。
夫は生かされたのだと思った。
だから、
「体は大事にしなくちゃ、
ダメだよ」
そう伝えた。
すると、
夫は黙ったまま、涙を流した。
この人は、
強くて、怖い。
でも、本当は。
誰よりも、弱いのかもしれない。