暇つぶしで入った骨董品屋でやたらと目につく眼鏡があった。
勝手な先入観かもしれないが、骨董品屋で眼鏡とはなかなかどうして、中古品という扱いではなく骨董品として扱われているそれになぜだか心惹かれてしまった。
眼鏡がないと見えなくなるほど視力が悪いわけではないが、これまでの人生かけてきた時間とそうでない時間を比べると、格段にかけて過ごしてきた時間の方が長い。
こだわりは特になかったし、歴史を感じるその眼鏡をどうしても手に入れたくなってしまった。
値段もそう高くない。
試しにかけようとしたとき店主に止められた。
「かけたら買いたくなくなるよ。そいつが気に入ったんならお代は結構だ、持っていってくれ。」
少し凝った作りのフレームではあると思ったが、試着されると困ることがあるのだろうか?
お代がいらないとなると急に不安になったが、どうしても手放せず、気持ちだけ払って買ってきてしまった。
試しにかけてみて、具合が良ければレンズを換えに行けばいい。
使えそうになかったら劇団をやってる友人にでもあげてしまおう。
家に帰り早速かけてみた、その瞬間。目の前が真っ暗になった。
部屋の明かりが消えたのかと慌てて眼鏡をかけ直す。
部屋の電気はついていた。
この眼鏡のせいなのか?
多少キズはついているがレンズは透明だ。
もう一度かける。
やはり真っ暗になった。
なんだこりゃ?変なものを買ってきてしまった。
多少後悔しつつ、目を閉じため息をつくと、目の前が明るくなった。
なんだ?
目を開ける、瞬間真っ暗になる。
まさかと思いながら静かに瞼をおろすと、少しずつ部屋が明るくなっていく。
なんてこった、目を開けると視界が真っ暗になって、閉じると見えるようになる眼鏡なのか…。
驚きもあったが不思議さが勝った。
しかし目を閉じていないと見えないなんて、周りの人たちは、そんな俺の姿を見てどう思うのだろう?
仕事も一日中パソコンに向かってデータの入力や送信作業だ。
目を瞑って他の誰よりも正確に仕事をこなすのはやはり奇妙だろうな…。
なるほど、これはやっかいなアイテムだ。
視界を良くするためにかけるのに、見えてる時と見えてない時の印象が逆転するのだ。
説明も面倒くさい。
かといって普段から使えるような機会もない。
金はいいから返品しに行くことにしよう。
翌日、骨董屋へいくと店はすっかりなくなっていた。
試しに眼鏡をかけて目を瞑ってみる。
するとしっかりと、店はそこにあった。
ちょっと待てよ、目を瞑らないと見えない店に俺はどうして入れたんだ?
眼鏡をかけて目を瞑った男が空き地の前でたたずんでいる。
声をかけても聞こえないようだ。