真面目に生きてきた。
大体の人がそうだと思うけど、決められたルールを大幅に外れることもなく、ほどよくユーモアを言い合い、アルコールに溺れたりギャンブルに浸かったりすることもなく、学校も仕事も他人に迷惑をかけないように過ごしてきた。
ある日、いつも行く飲み屋のカウンタでこんな話になった。
「呑みすぎた朝はいっぺん起きて水飲むんだけど、そのあと、なんか変な夢見るんだよなぁ」
「どんな夢?まさかお漏らしするとか?」
「チガウよ!もう要らないって言うのに水がどんどん、入り込んでくるんだよ。どんどん、どんどん流れ込んできていつのまにか自分が海の中にいるんだ。」
目が覚めると布団の中で、安心して忘れることもあるという。
実をいうと僕は夢を見たことがない。
子供の頃から夢の話になると、下手なドラマよりも面白い話が聞けて楽しかったが、自分の番になると何も出てこないのでよく変な目で見られた。
見ないものはしょうがない。
「覚えてないだけじゃない?」ともよく言われるがそんなことはない。
なんなら眠るという感覚が分からない。
目を瞑って静かに深呼吸をする。
2〜3回だろうか、すると瞼の裏から赤いチラつきが見えてきて目を開けてみるともう朝なのだ。
特別日当たりがいいとか、部屋の窓を開けっぱなしにしてるわけでもない。
眠りに落ちる時の独特な呼吸のリズムと、瞬間で訪れる赤いチラつき。
これが僕の見ている睡眠中の景色だ。
自分が見られない分、人の夢の話を聞くのが好きでよくお願いする。
オチがなくても、短くても、3本立ての大作でも、確実に主人公として生きてるその人自身の話を聞くのは、おもしろい。
国境を越えたり、リアルを破壊したり、年齢も性別も自由に操作して生きている。
“目覚めてからの自分”が本当の自分だと思って、生きている。
僕は夢を見ない。
眠りに落ちる時の独特な呼吸のリズム、瞬間で訪れる赤いチラつき。
これが僕の見ている睡眠中の大好きな景色だ。