深更
すぎさったものに
走り出したいような衝動が芽生える
思い出すたびに苦い出来事
大きな悔恨
情けない心情
僕の人生は悔いの中にあった。
しかし、それに気がついただけでも儲けものじゃないだろうか。
72年の生涯はあす終了するかもしれない
だとすれば、自らの凡愚をそのまま抱いて
素の僕が立っている、その中身が前向きであるように決めてみよう
緩いなるたけの「前向き」でいいじゃないか
大した者ではないからこそ、立派な行いをやるという言霊を自らに課していきたいと
浅はかにも規定した(笑)
-中原中也-
老いたる者をして
――「空しき秋」第十二
老いたる者をして静謐(せいひつ)の裡(うち)にあらしめよ
そは彼等こころゆくまで悔いんためなり
吾は悔いんことを欲す
こころゆくまで悔ゆるは洵(まこと)に魂を休むればなり
あゝ はてしもなく涕(な)かんことこそ望ましけれ
父も母も兄弟(はらから)も友も、はた見知らざる人々をも忘れて
東明(しののめ)の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな
或(ある)はまた別れの言葉の、こだまし、雲に入り、野末にひびき
海の上(へ)の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……
反歌
あゝ 吾等怯懦(けふだ)のために長き間、いとも長き間
徒(あだ)なることにかゝらひて、涕くことを忘れゐたりしよ、げに忘れゐたりしよ……