ナイキ エアジョーダン16 (ブラック/レッド)
・これはあまり大きな声で語られないことだけれど、
どんなに高名なモードブランドやデザイナーズブランドよりも、
遥かにお洒落でモードなシューズをナイキはつくっている。
これは、ぼくがナイキというブランドと恋に落ちて以来、
一貫して抱き続けている感想だ。
そして遥かにアーティスティックでありながら、
それらはアスリートが必要とする最先端のテクノロジーを搭載した、
じっさいに履けてなおかつ機能性に優れたシューズなのである。
(どんなにアーティスティックなデザインでも、
じっさい日常的に履くのに支障があるモードシューズは山ほどある、
という前提のもと。)
まさに驚嘆に値するこの事実は、
どういうわけか一般的にはあまり語られていない。
おそらく世間一般から見た場合のスニーカーに対する価値観は、
それに熱中する一部の人間の間だけで存在する特殊なものであり、
「所詮は運動靴でしょ?」
というような捉え方が未だ根強いことに端を発すると思うのだけれど、
これは本当に残念としか言いようがない。
そんな現状を打破するためにも、
ぼくはこうしてモード的見地から改めてスニーカーを見つめ直し、
スニーカーの地位向上を図る活動を、
微力ながら続けていきたいと思う。
・とにかく、そんなナイキの中でもトップブランドであるエアジョーダンは、
毎年その時点のナイキの持てるすべての技術を結集した、
まさにナイキというブランドの精神を具現化したような存在である。
マイケル・ジョーダンという選手がつねに革新的であったように、
その足元を支えるエアジョーダンも新作ごとにつねに進化を続けている。
とくに一度目の現役復帰を果たした時点で履いていた、
エアジョーダン11からの進化の過程は特筆に値する。
11から12、13、そして14を履いて決めた「ザ・ラストショット」
を最後にジョーダンが2度目の引退をしたため、
15、そしてこの16に関しては9以来、
再び主がコートに存在しないモデルとなったわけだが、
だからといってエアジョーダンの進化が止まることはなかった。
アバンギャルドなデザインの15のあとにリリースされた16は、
おそらく90年代中期のエアアジャストフォースなどから着想したであろう、
取り外し可能な大きなカバーが最大の特徴である。
マジックテープ式だったアジャストフォースのそれに比べ、
エレガントなマグネット式に変更されているほか、
エナメルと柔らかいシボ革の組み合わせなど、
全体的にジョーダン自身が好むドレスシューズのような、
上品な印象に仕上がっている。
数少ないカラバリの中でも、デザインの良さがもっとも際立つのは、
やはりファーストカラーのこのブルズだろう。
衝撃吸収はフルレングスのズームエアで、
ヒールの一部を可視化することで、
AJ6以来10年ぶりとなるビジブルエアを採用している。
・いったいほかのどんなブランドに、
こんなシューズが生み出せるというだろう?
スニーカーに偏見のある方はぜひ一度、
「スニーカー」や「運動靴」あるいは「ナイキ」という色眼鏡を取り払って、
純然たる作品として、これらのシューズを眺めてみてほしい。
エルメスやシャネルにもにも引けを取らないエレガンスと、
NASAやグーグルと肩を並べるほどの最先端のテクノロジーの融合。
それらがたった一足のシューズに詰まっているという事実に、
あなたはきっと、驚きを禁じ得ないはずだ。
シンヤヤマグチ



