気になっていた作品。ハイエクについては原典を読んだのは、「隷従への道」だけだ。そこでは社会主義やファシズムに代表される設計主義がなぜ失敗せざるを得ないかが明確に明らかにされている。それ以外には、Slobodianの「Globalists」やJohn Grayの「Hayek on Liberty」などのいくつかのハイエクについての作品を読んだだけ。

 

ハイエクはその知的関心が経済学、心理学から法哲学、政治哲学にまで多岐にわたっており、なかなかその全体像をとらえるのが難しい人物だ。彼の英語が必ずしもわかりやすいものではないというのも、なかなか原典に近づくのを困難にしているのかもしれない。また、結果として文脈を離れた切り取りが横行することにより、彼の全体像の把握をさらに難しくしているのかもしれません。そういえば、前記のSlobodianには未読だが「Hayek's Bastards」というそのものずばりともいうべき近著まで出ているほどだ。

 

この「ハイエク入門」は400ページを越える大著だ。世間一般に流布されている「新自由主義」とのかかわりを横において、ハイエクの幅広い思想体系が、伝記的記述とともに、時系列的に丁寧に説明されている。驚かされるのは、彼の様々な人物とのかかわりとそこからの影響だろうか。その影響はウイーンをベースとした同時代人(mises、popperやwittgenstein)にとどまらずケインズ、エドモンド・バークやヒュームなどの英国の思想家までが含まれている。論戦をも含むこの相互作用の中から、最終的には「自生的秩序」に代表されるハイエクの独特の思想体系(設計主義の否定と無知への認識)が生み出されてきたというわけだ。

 

本書は、この相互作用の経緯が初学者にもついていけるように、その背景をも含めて丁寧にかつ細かくたどられている。とはいえ、ハイエクという巨人、読み手にもそれなりの知識を要求する。この作品を横において、ゆっくりと立ち向かうべき人物だろう。