本作品の紹介に入る前には、もう少し、基本的な説明が必要かもしれない。
破綻処理とはつまるところ、銀行が被った損失の負担だ。なぜ損失が問題となるのか。それは銀行の受けた損失が、自らの自己資本を越えてしまった場合だ。
資産(貸出100)=負債(預金90)+自己資本(10)というのはバランスシートの基本的な原理だが、銀行が自らの自己資本を越える損失を越えて損失(15)を被るということは、資産が減り(85)、自己資本がマイナス(10-15=-5)となり、債務超過(資産より負債の90が大きい)となってしまう。
一見しただけで、負債(預金)が資産を越えているのが見て取れるが、これを会計上の債務超過という。
これを銀行の場合はinsolvent (支払不能)ともいう。実務上は、たとえこのような「支払い不能」の状態になっても、銀行は預金の引出が巨額にならない限りは、格別問題もなく、当面は営業を継続していくことは可能だ。ただ会計上はすでに「破綻」していることは明白だ。
普通の会社であれば、会社更生法の申請のケースは別として、業務を停止し、管財人の下で、破産・清算ということになり、損失(自己資本の-5)の5を債務者が負担することになる。5/90=5.5%の債権者の債権カットで万事めでたし。
ところが銀行に関してはこのような処理が実務上は出来ないのだ。理論上は可能だし、実は日本でも実際に行われたケース(日本振興銀行)もある。というのは、通常の銀行は無数の当座・普通預金勘定を抱えており、これが現代の経済では様々な企業や個人の経済活動の支払・決済手段として機能しており、銀行の営業停止、破産・清算ということになると、この支払いシステム機能が停止してしまう。となると経済活動が大きな支障を受けてしまうのだ。
というわけで、銀行はあくまでも通常の営業を続けながら、「破綻処理」を行うことになる。この処理が、損失の出た-5の部分の処理なのだ。5を埋めただけでは、0になるだけなので、清算を前提とした「破綻処理」となる。清算を前提とすると、実際のところ銀行の営業基盤は大きく崩れていくので、通常は「再生」なり「他行による吸収」を前提とする「破綻処理」のケースが多い。というわけで、実際は15の新しい資本が必要になる。この15をどうやって見つけ出すのかが「破綻処理」のミソとなる。
国が新しい15の資本注入を行えば、話は簡単だ。ところが、国が行えないとなると、話は複雑となる。キプロスはこのケース。
同国の2大銀行の規模は同国のGDPの数倍にも達しており、この二行が抱えた損失の規模が、同国の財政規模に比して大きすぎたのだ。このため、キプロスは、欧米格付会社から格付を引き下げられ、国際資本市場での新規発行並びrefinanceが出来なくなってしまったのだ。銀行を支援するどころか、自国政府の資金繰りにすら暗雲が漂い始めたのだ。ユーロに加盟していなければ、自国通貨で国債を発行すればいいのだが、ユーロに加盟したキプロスには、これが出来ないのだ。
さて、どうなったのか。ここからが本書のメインテーマとなる。
