「合わない、合わないな」と言いながら、藤沢周平をまたまた読んでしまった。どうも相性があまりよくないので、はたして彼の作家としての出発点はどんな作品だったのかという思いから、今回は著者死後の2000年代に再発見された、「未刊行初期短篇」を読んでみた。高橋書店という余り聞いたことのない出版社から出されていた雑誌に、1962年から1964年にかけて発表された15の短編だ。今回はそのうち14編を読んでみた。なお「無用の隠密」はその中の一編のタイトル。

 

よく処女作にはその後の展開が萌芽のかたちで凝縮されているといわれるが、彼のその後の作品はあまり読んでいないので、いわゆる彼の到達点からさかのぼってbackward interpretationをする知識も資格も僕にはない。藤沢の全作品に詳しい読者にとっては、藤沢の「型」の様々な萌芽をここに見出すことが出来るのだろう。

 

ただいくつかの特徴を確認することが出来た。

 

時代順に読んでみたのだが、最初の隠れキリシタン物二編はどうもうまくできていない。登場人物も結構多く、筋を追うのもなかなか厄介で、何度も前後を行き来してやっとそのストーリーラインをたどるほどだ。16世紀の戦国時代の庄内をめぐる武将者二編もどうもわかりにくい。スペースの限界なのか、もしくはこの地域の勢力争いそのものの複雑さだろうか、事実そのもがあまりわかりやすく整理されておらず、描かれた人物とどうもうまく交錯しないのだ。思いに作家の力量が追い付いていないのだろう、

 

ただこのわずか2年という短期間の間にも、著者の力量は着実に進歩を遂げていることには疑いはない。この期間の後期に発表された隠密物ともいうべき、「上意討ち」や「無用の隠密」になると、短いスペースの中で、話の起承転結と「隠密」(この時代は「隠密剣士」というテレビ番組がヒットしていた)というモティーフがうまくはまり、最後の余韻といい、「藤沢節」といっていいそれなりの型をものにし始めているのだ。「浮世絵師」もなかなかうまくまとめられている。

 

全部とは言えないにしても、ここに明らかなのは、故郷庄内への深い愛着だろうか。庄内藩という越後と山形に挟まれたこの地域の歴史に題材を取った作品が何本もあるのだ。それも扱われた時代は戦国時代から江戸時代までだ。登場する人物も藩の上層部、豪族・武将から隠れキリシタン、市井の木地師や人形作りの職人までと幅広い。また風景の描写も非常に細かい。

 

今回は、単行本ではなく、藤沢周平の全集第26巻を読んでみた。この26巻には「帰省」というヘッディングの下で、著者の様々なエッセイが収められている。これはこれで時代を感じさせてなかなか面白い。