| ノモンハン戦争 モンゴルと満洲国 (岩波新書) [ 田中克彦 ]
907円
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このところ楊海英氏のモンゴル関係の著作をずっと読んでいるのだが、とうとうこの著者の作品にたどり着いた。著者の田中克彦氏はあの古典ともいうべき作品「草原の革命家たち―モンゴル独立への道」の著者でもあり、本来ならこの作品「草原の革命家たち―モンゴル独立への道」を最初に読むべきだったようだ。というのはおそらくこの作品こそが、楊英海氏の作品の知的触媒となっているようだからだ。
本書「ノモンハン戦争」の出版は2009年で相当な時間がいまでは経過している。そして中身はタイトルとは相当違っている。「あとがき」も素人には理解不能な意味深な書き振りの部分があり、奇妙なエピソードも織り込まれている。ノモンハン戦争自体、不思議な始まりと展開そして終わり方をしている奇妙な戦い(Phoney war)なのだが、本書ではその奇妙さは指摘はされていても、その持つ意味は解明されていない。ノモンハン戦争後の休戦交渉に関わったモンゴル側の人物のほとんどはその後すぐ粛清されているわけだが、日本側の軍人にもソヴィエトのスパイと指摘されている人物が見受けられる。独ソ不可侵条約締結を前にした不思議な戦争だ。
ノモンハン戦争(事件)はたしかに本書の中心的なテーマだが、本書はむしろノモンハン事件を契機として、様々な方向へ著者の問題関心は拡散されている。モンゴル人民共和国の成立だけでなく、満州国興安省の持った意味、30年代モンゴルに吹き荒れた本家顔負けの粛清の嵐、極東GPU地方長官の満州国への亡命、偽造文書として有名な「田中上奏文」そしてソロヴィヨフや汎モンゴル主義、まで論点はとめどもなく広がっていくのだ。スペースが限られている中での拡散であるから、結果としてはいくつもの興味深い論点を提示しながらも、どれも分析上の深堀は中途半端なものとなっている。最近の研究はこれらの論点を深堀しているのかもしれない。
