インドの圧倒的な現実との様々な格闘

 

1994年に一度読んだ作品ですが、再読。悲しいかな、すっかり忘れており、まるで初めて読んだかのよう。出版は1965年。著者にとっても10年以上のインド生活で当初のインドに対する興奮が冷めてきたころの作品でしょうか?


登場人物は10人を超えるのですが、中心となるのはJudy(英国の下層中産階級出身の女性), Bal(Judyの夫)、Etta(不思議なハンガリー人)、Clarissa (イギリス人)、Sudhir(Judyの職場での同僚)、Hochstads夫妻(イギリスから2年の予定でインドに来た客員教授のドイツ人)でしょうか。インド人と西欧人の双方が登場します。ただここに登場する西欧人たちにはDr Hochstads夫妻を除くと、インドに仕事で派遣されてきたexpatriateたちではなく、帰国の予定がなく、外貨での収入源を持たないという共通点があります。


どの人物も様々な運命の変転により、このインドという舞台で長い生活をすることになった人物たちであり、それぞれがそれなりの社会的な背景を背負っているのです。その中には頑固にインドを否定し西欧流を貫く者もおれば、インドを聖化するものもおり、またここでの矛盾に満ちた日常の生活を所与のものと受け止めて生活をする者たちと、様々です。この登場人物たちはお互いに帰国の予定がない西欧人ということで特別の人間関係を形成しており、Judyの勤務先であるcultural dais(国際文化協会みたいなものでしょうか?)という場を通してインド人たちとの濃密な人間関係を築いているのです。


本作品の肝はこれらの人物がこのインドの日常の中で繰り広げる人間関係の細かい描写です。細かい小道具や何気ない会話はインドの現実の中におかれることでその喜劇性が明らかになり、それぞれの人物を象徴しながら読者を楽しませてくれます。途中からはこれらの人物はみなあるプロジェクトにかかわることになるのですが、その帰結は読んでのお楽しみです。結末にかけては、ある種の重大な決定がJudyやSudhirには要求されるのですが、以下の引用にも示されるように、この時点での著者のストーリーの締めくくり方はささやかながらも希望をはらんだものです。

「But it seemed to him now, shut in with an assortment of strangers and travelling through a landscape which was too dark to be seen and could therefore be only guessed at, that perhaps the paradox was not a paradox after all or, if it was, was one that pleasurably resolved itself for the sake of him who accepted it and rejoiced in it and gave himself over to it, the way a lover might.」