At the End of the Century: The stories of Ruth Prawer Jhabvala
これはRuth Prawer Jhabvala (RPJ)の新作ではありません。悲しいことにRPJ自身は2013年に既にこの世を去っていたようです。これはRPJの作品のanthorogyです。もっとも誰が選んだのかは明記されていないようですが。RPJにはいくつかのanthorogyがありますが、その代表的なものは、「out of india」Out of India: Selected Storiesでしょうか。実は私自身もこの「out of india」で1990年代初めに初めて彼女を知り、彼女の他の作品を渉猟したものでした。今回のanthrorogyは当初は購入を迷ったのですが、抵抗できない価格が一瞬ネット上で提示されていたため、ある程度の重複は覚悟の上で購入しました。
購入して、手持ちのRPJの著作と丁寧に比較してみると、前述の「out of inidai」「My nine lives」My Nine Lives: Chapters Of A Possible Past「A Lovesong for Inidia」A Lovesong for India、「East into Upper East」East into Upper East: Plain Tales from New York and New Delhiと相当の重複が見受けられ、全編17のうち私にとって初見ともいうべき作品はわずか4篇という少なさでした。
ただ本書にはAnita DesaiのIntroductionがついており、これが素晴らしいのです。個人的なrecollectionを中心に据えたこのIntroductionは非常にpersonalなもので、RPJとの50年代後半のOld Delhiでの出会いに始まり、RPJの長い文筆生活やそこに見られるRPJの思いや関心の変化などが簡潔にまとめられており、またNaipaulやKushwant Singhなどの作家とのRPJのユーモラスな邂逅のエピソードなども収められています。そういえば、RPJがドイツからの英国への亡命者 (Generation Exodus: The Fate of Young Jewish Refugees from Nazi Germany)だったように、Anita Desai自身も、インド人と中欧出身のユダヤ人の混血Baumgartner's Bombayだったわけです。
今回は重複を覚悟の上で、インドを舞台とした1980年以前の作品(全編中、約半分)をじっくりと読んでみました。いうまでもなく人間の記憶は頼りないもので、どれもがあたかも初めて読むような新鮮な印象を与えてくれました。思い起こしてみると、彼女の作品には明確な起承転結はないのです。たしかに主人公は存在し、そのほとんどはインドの現実の中に放り出されています。でも現実は変わるわけでもなく、主人公自身の運命や立ち位置にも作品中では大きな変化なるものは起きません。そこにあるのはインドの現実の中で日々生起する様々な一瞬のシーンの描写なのです。
その主人公はインドの大家族制度の下での女性であったり、インド独立後もインドにstay on することを選んだイギリス女性やいろいろな経緯(結婚やヒッピーでの放浪その他)でインドにたどり着いた非インド人の女性たちなのです。どの女性もいわゆるアメリカ流のpositive thinkingとは別種の女性たちです。彼女たちがインドの歴史や社会(それは魅力的なものでもあり、おぞましいものでもあるわけで)との折り合いをどうつけていくのか、その繰り返される格闘のプロセスを繊細にperceptiveに描くことに、RPJは自身の精力をかたむけていたというわけです。その営為こそが、彼女が自身の特異なidentityを維持し、インド人にならずに済むただ一つの手段だったというわけです。
もっともこの格闘はRPJにとっても過酷なものであり、彼女自身も後にNYにその生活の一部を移し、その営為もForesterやHenry Jamesの映画作品のscript writing ( The Films of Merchant Ivory)やインドを離れた小説の世界に変化していったのですが、それはまた別の話です。
