少し前に、長年本棚に鎮座していたThe Open Society and Its Enemies (Routledge Classics)をやっと読了し、他にも控えているPopperの他の作品も読もうと思ったのですが、ふとはたしてどの程度popperの思想を理解できたのかが不安になり、なにかわかりやすい解説書がないか探してたどり着いたのがこの作品でした。いや驚きました。Brian Mageeの作品なんですわ。Brian Mageeといえばワグナー関係の書物The Tristan Chord: Wagner and Philosophy、で過去に読んだことがあり、その明晰でわかりやすい筆致が記憶に残っている著者でもあります。
さてこの作品はpopperの思想体系への簡潔な紹介を目的としています。popperの思想は自然科学だけではなく社会科学を含めた多岐の領域にわたるのですが、それ自身が全体としての体系的な統一を作り出しており、その観点からわかりやすく解説されていきます。まず知識、科学と科学的な方法が展開され、そして理論の持つ限界、verifiabilityとfalsifiabilityの違いやcriticismの重要性、最後はopen societyの主題でもあった政治哲学までもが本書ではカバーされていきます。そこで明らかにされるのが、方法論と政策論そして人間観そして認識論の間に存在する論理的な首尾一貫性なのです。わずか100ページの中にこれ程の概要が詰め込まれているという偉業が著者のたぐいまれな能力を示しています。
さて、残る疑問はこれを先に読むべきか、それとも私のように先にpopperの作品を読むべきかという点に帰着するのですが、これはどちらもありということになります。popperの作品は独特の文体と議論の型がとてつもない魅力を持っているからです。なおこの作品は1973年が初版であり、私が手元にあるのは、1982年の第10版です。中古で黄色くくすんだ代物です。紛らわしいのは,Philosophy and the Real World: An Introduction to Karl Popperという作品が同じ著者から出ている点ですが、中身は同じです。
