ファシズムの正体

 

佐藤さんの前の作品(テロリズムの罠 右巻: 忍び寄るファシズムの魅力でファシズムのことを取り上げており、だいぶ時間がたったが、今回期待をして読んでみました。が、読後感は複雑なものでした。中身は高校向けの教科書と主にいくつかの今はもう忘れられた作品からの引用をまとめたという作品です。そして他のreviewer (fjtn)の方も指摘している通り、議論が粗く、事実関係についてもかなり一方的な自己流の解釈で引用されているケースが多く、この怪物の魅力とわかりにくさが、それにふさわしいスケールで提示された作品ではありません。paretoやgentile等も引用されますが、どちらもこんな引用で全体像が図れるようなスケールの小さい思想体系の人物であはりません。


というわけで、本書を一読しても、ナチズムとイタリアファシズムの違いは分かっても、ファシズムという全体像を理解することはできません。というより、もうこのファシズムという言葉の使用はやめた方がいいのかもしれません。まず、この言葉にはあまりにも「負」のイメージがまとわりついており、racismと同じようにもはや学問やまともな議論の道具としては用をたさないようです。そしてこの「ファシズム」というoverarching labelの下には、あまりにも多様な潮流(その中にはvichy 政権、中国の国家資本主義、北朝鮮の金王朝制、戦前の流産した日本の立憲君主制)を包含してしまうという融通無碍が横行しているというわけです。ファシズムというのは政治的なスローガンでのレッテル張り以上のものではないのです。


もう一度、中断している作品The Birth of Fascist Ideology: From Cultural Rebellion to Political RevolutionGiovanni Gentile: Philosopher of FascismMussoliniNeither Right Nor Left: Fascist Ideology in Franceでも読んでみようか。