昨年から読み始めているanthony priceのdavid audleyシリーズ、その第14作。この作品は原著では持っておらず、中古本での入手も考えたが、値段が高い。手頃な価格で可能なkindleでの読書も考えたが、経験がなく、どうも抵抗がある。この作品は飛ばそうかと決め、第15作「Here be Monsters」を読み始めたのだが、いろいろ調べて見ると、plotの絡み上、どうもこの第14作は飛ばさないほうがいいだろうとの結論に達した。というわけで、邦訳が出版されているため、それでの読書に決めた。これも中古では入手は不可能だった。近隣の図書館での貸し出しも難航を極めたが、やっと千葉市立図書館に在庫があるのを確認して取り寄せた。これほど、手間をかけて入手した作品だが....

 

舞台は1983年に設定されている。文中では、1984年とにおわせる言及が何度もなされるのだが、前作「Gunner Kelly」での事件が一年前と明示されており、これは明確に1982年の事件なので、よくある著者の見落としなのであろう。

 

さて中身はというと、これも難解な筋書きの作品だ。Audley シリーズは、Audleyシリーズと銘打ちながら、それぞれの作品で主人公が異なるケースが多い。本書でも、主人公には、部内での出世競争で脱落したLatimerが選ばれている。この人物、実は、本シリーズの「Soldier No More」にも登場している人物だ。この「Soldier No More」は1957年を舞台とした作品であり、本作品の舞台との間にはおよそ四半世紀もの時間の経過が存在している。というわけで、David Audleyとは一方ならぬ長い因縁を持ち、いつもAudleyと対立してきた人物として設定されている。余談だが、このAudleyシリーズ、どの作品も万事がこの調子で、読者は、これまでの作品をすべて読んでそのディテールに周知していることが前提とされているのだ。

 

今回は、このLatimerに加え、他のAudleyシリーズでも何度か主人公を演じてきたPaul Mitchelも副次的ながらも重要な役割で登場し、David Audleyと謎の解決に奔走することとなる。

 

さてその謎だが、2つある。南北戦争での南軍の財宝探しと1950年代に行われたとされているKGBの西側でのスリーパー養成作戦(Debreczen list)だ。後者については、前作「Gunner Kelly」の謎の一端をなしており、自作の「Here be Monsters」の中心となるテーマのようだ。

 

相変わらずの人間関係の複雑さと、今回は米国南部がLatimerの活躍する舞台となるため、これまでの作品とは一風変わった雰囲気が全編を通して充満している。もっとも、Latimer自身はこの全体の構図は知らずに、現地に個人的な動機から飛び込むため、全体の謎の解明はロンドンのAudleyとMitchelに任されることとなる。謎は、ミステリーのルール破りともいうべきご都合主義ともいえる角度から最後の瞬間に解明される。もっともDebreczen list自体の中身の深い解明は、本書でもなされることはなく、その一部が明らかにされるだけなのだ。

 

うーん。よくもまー、このシリーズ、これほど長く続いたものだ。実は、この後、いわゆる番外編も含めて5つも作品があるのだ(全部で19作品)。スパイものといいながらも、本作品も例にもれず、その敵であるKGBの具体的な姿はほとんど登場することはなないのだ。あくまで背後での存在と暗躍が示唆というかほのめかされるだけなのだ。このシリーズ、全編、中心となるのは、イギリス人さらにはせいぜいアメリカ人やフランス人、ドイツ人(それもイギリス人との混血)との間の謎かけめいた会話の連続。たしかに歴史的なエピソードと謎は作品によって異なるが、悪く言えば19180年代のイギリス人の独断と偏見(?)に満ちた会話の綾を楽しむ作品なのだ。この作品の後、Priceのこのシリーズの邦訳はもうない。それも当然だろう。もう一つ(Here Be Monsters)だけ、手持ちの作品が残っている。