勝手に論愚選 【朝日俳壇2024.02.04】うたをよむ 雪と氷のうた | 論愚阿来無の欠伸日誌(ろんぐあらいぶのあくびにっし)

論愚阿来無の欠伸日誌(ろんぐあらいぶのあくびにっし)

「小人閑居して不善を為す」日々大欠伸をしながら、暇を持て余している。どんな「不善」ができるのか、どんな「不善」を思いつくのか、少し楽しみでもある。

 アラコキ(アラウンド古稀)世代が、何に夢中になり、どんなことに違和感を覚えるのかを徒然に綴っていきたい。

勝手に論愚選
【朝日俳壇2024.02.04】
[小林 貴子 選]
新日記こころの天気加へけり (茨城県阿見町 鬼形 のふゆき)
お客さんなまこでしょうと声かかる (秋田市 神成 石男)
アブラカダブラ加湿器擦つてみる(香芝市 土井 岳毅)
餅花や亭主ゐぬ間にそつと触れ (大阪市 上西 左大信)
着水の白鳥こともなげの顔 (枚方氏 阪本 美智子)

[長谷川 櫂 選]
八代逝く吾熱燗で偲ぶかな (高萩市 小林 紀彦)
一枚の布のあやなす春着かな (茨城県河内町 吉村 巌)
春の水蛇篭に転居源五郎 (河内長野市 西森 正治)
寒月や闇に一本滑走路 (静岡市 松村 史基)
冬麗やリュックに揺るる水の音 (オイツ ハルツォーク 洋子)

[大串 章 選]
蕉翁の影を幻視の枯野かな (横浜市 渡部 萩風)
初空を飛行機雲の一行詩 (鎌倉市 黒岩 伸幸)
水の色氷の色になりにけり (相模原市 井上 裕実)
平和ボケのままで老いたし冬桜 (北名古屋市 月城 龍二)
青空に何も隠さぬ枯木立 (我孫子市 森住 昌弘)

[高山 れおな 選 ]
元朝の蜘蛛ひたすらに上昇す (甲府市 中村 彰)
刃物屋の棚に折鶴年新た (岐阜市 三好 政子)
寒晴は空の正装なりしかな (高松市 渡部 全子)
三才の手があたたかい冬の道 (川崎市 かとう ゆうき)

うたをよむ 雪と氷のうた 北山 あさひ
 一月下旬、北海道は真っ白な冬の真っ只中。北に生きる一人一人に、それぞれの雪が降り、氷が光を反している。
 流氷に遭難したる僚船を救助にゆきたる船も帰らず (駒坂 芳夫)
 僅かなる仮眠に耐へる若さあり着氷砕く掛矢を振りて
 我が船は北のはずれのカムチャッカ朝な夕なにトドの群れ来る
 昨年発行の歌集『我が海の歌』は、かつて北洋漁業の現場にいた元漁師による、記憶と鎮魂の一冊だ。流氷や凍てつく寒さとの闘い、大きな自然との対峙に、心の深いところが不思議と満たされていく。駒坂は釧路市在住の九〇歳。「花形」とも呼ばれた北洋漁業だが、それを知る人ももう少なくなった。これらの歌が書き残された意義は大きい。
 最後の北洋船が出漁したのが昭和六十三年。その前年に誕生したのが旭川在住の塚田千東である。
 女にはわからぬと笑む松の幹 ひとりひとりの雪庇(せっぴ)せりだす (塚田 千東)
 勝ちに行く 踵の雪を蹴り落とし冬に生まれたたましいだから
 塚田の『アスパラと潮騒』は昨年の北海道新聞短歌賞佳作に選ばれた一冊。男尊女卑的な社会で女性として生きることの悔しさや怒り、あるいはそれらを反骨のエネルギーとして一歩を踏み出す。そうした場面に雪が詠み込まれている点に注目したい。冷たく降り積もる雪は、ときとして人に寄り添い、勇気づけてくれるのだ。
 北海道の雪と氷の季節は四月下旬ごろまで続く。