勝手に論愚選 【産経俳壇2023.12.28】【産経テーマ川柳】年間賞2023 | 論愚阿来無の欠伸日誌(ろんぐあらいぶのあくびにっし)

論愚阿来無の欠伸日誌(ろんぐあらいぶのあくびにっし)

「小人閑居して不善を為す」日々大欠伸をしながら、暇を持て余している。どんな「不善」ができるのか、どんな「不善」を思いつくのか、少し楽しみでもある。

 アラコキ(アラウンド古稀)世代が、何に夢中になり、どんなことに違和感を覚えるのかを徒然に綴っていきたい。

勝手に論愚選
【産経俳壇2023.12.28】
今年の8句
[宮坂 静生 選]
戦闘に向く人はなし稲雀 (東京・世田谷 野上 卓)
白息や口無き顔は見飽きたよ (尼崎市 永田 啓司)
陽炎より帰還の父の現れし (宍粟市 宗平 圭司)
秋風の上皇とゆく開拓地 (浜松市 宮田 久常)
善光寺平はさくら隠しから (長野市 武田 芳子)
芭蕉布やこころ蜻蛉(あけづ)のごと自在 (西宮市 辻 敏子)
万緑やヨガのポーズに風の音 (川崎市 小関 新)
新涼や脂ほどよく乗る妻よ (東村山市 小熊 寿房)
(評)戦況報道に明け暮れた多難な1年であった。野上さんの稲雀に託した反戦の句は平和を願う人類の気持ちだろう。マスクを掛けることで顔をなくしてしまったコロナ禍によるロスは人間を怠惰にした。感性が鈍化してしまいメリハリの利いた俳句が減少した実感がある。宗平さんのように戦没した父への幻影は生涯消えることがない。宮田さんの秋風の開拓地は浅間山麓の大日向開拓地詠。上皇さまは軽井沢へ避暑にお出かけのたびに訪問される。武田さんの桜時の雪「さくら隠し」の地貌季語や辻さんの「蜻蛉」の沖縄方言など地域への目配りが俳句の民衆詩としての要に当たる。小関さんのヨガのポーズの風音、小熊さんのヨガの奥方賛美など、センスのよろしさとユーモアに出会えたこともうれしかった。

[対馬 康子 選]
初空へ息するように一句詠む (宇治市 永濱 美智子)
春の蝶影の頭上を越してゆく (堺市 坂口 アイ子)
抱き合ひのち背き合ひアマリリス (広島市 谷口 一好)
マカロンのドミソをかじり更衣 (長野市 武田 芳子)
全記憶吹割滝に吸はれたり (熊谷市 末木 百合枝)
胸に灯のともる手紙や秋風鈴 (志木市 谷村 康志)
彼(か)は誰(たれ)の花氷満つ中二階 (浦安市 岡 研一)
滔々(とうとう)と波立たずして月の川 (東京・足立 山﨑 勝久)
(評)寺井谷子先生の後を受け、9月より選者に就任した。私の師の中島斌雄も昭和58年に当俳壇選者に就いており、ご縁がありうれしい。経済も環境も平和も不安が尽きない現代。しかし、永濱さんの「初空へ息するように」新年の句に向かう俳人のすがすがしさに鼓舞される。自身の影と春を告げる蝶との交歓を捉えた坂口さん、恋の顛末のような谷口さんのアマリリスの描写もともに詩がある。武田さんの句はマカロンとドミソの音符を符号させ「さあ更衣え」と気合いを入れる日常がすてき。末木さんの豪快な自然の吹割滝、岡さんの花氷が咲く不思議な中2階は、記憶の異次元に誘い込まれるようだ。谷村さん、手紙という物ははかく人恋しい。山崎さんの月の川の悠久に、平穏への思いが響いてくる。

【産経テーマ川柳】年間賞2023
子だくさん昔貧乏今富裕 【少子化】横浜市 野口 博史
協会へ六日後お寺の鐘を突き 【二刀流】生駒市 山西 徹
最近は地震強盗詐欺コロナ 【地震】大阪・太子町 五十川 美惠子
医学にて極楽行きを連れ戻す 【極楽】大阪市 貴村 亘
リゾートなら夕日アパートなら西日 【アパート】倉敷市 中路 修平
学生街本屋の跡にラーメン屋 【本屋】東大阪市 安井 秀美
欠席に殺されている高齢者 【風評】東京・江東 佐野 一信
ふる里がこだまやまびこ近くする 【やまびこ】神奈川・二宮町 大石 秀一
家中にマッチ一本見当たらず 【火災】東京・目黒 川村 亮介
アルコール入れば品格急降下 【品】浜松市 杉浦 仁
通販のおせちは去年のいつ頃製? 【重箱】東京・荒川 佐々木 重雄
お父さん醤油は味をみてからよ 【エチケット】東大阪市 岡田 昌奈