勝手に論愚選2016.12.22 | 論愚阿来無の欠伸日誌(ろんぐあらいぶのあくびにっし)

論愚阿来無の欠伸日誌(ろんぐあらいぶのあくびにっし)

「小人閑居して不善を為す」日々大欠伸をしながら、暇を持て余している。どんな「不善」ができるのか、どんな「不善」を思いつくのか、少し楽しみでもある。

 アラコキ(アラウンド古稀)世代が、何に夢中になり、どんなことに違和感を覚えるのかを徒然に綴っていきたい。

勝手に論愚選2016.12.22
【産経俳壇2016.12.22】
[宮坂 静生 選]
愛されることも寂しや破芭蕉(わればしょう) (東京・世田谷 野上 卓)
干からびる雑巾ありて休暇明け (神戸市 内藤 京子)
浴衣着のあの人つたらそりゃあもう (加東市 北島 衛)
痩せし身の若きら逗子の海は夏 (横浜市 橋本 葉子)
薔薇の花嗅げば老いたりとも思ふ (町田市 枝澤 聖文)
楪(ゆずりは)や大きくなれと肩車 (堺市 いわきり 秋月)
山焼いて大佛様を温めたる (橿原市 堀江 重臣)
口笛を吹かぬマドロス都鳥 (横浜市 津田 壽)

(評)心が風景に浸透して一句が顕(た)ち上がる。どんなに正確に風景を描いても作者の心が感じられない俳句は感動しない。洞察が効いた句、ものへの愛情が浸透した句、心温まるおかしみや若さをぶつけた句、老いや生きる深見を詠んだ句など多彩な句に出会った。
 野上作は愛の深みを捉え考えさせられる。内藤作は干からびた雑巾への素朴な愛情が暖かい。北島作はユーモアあふれたおのろけに爆笑。橋本作は現代の若者像の一面を捉え巧み。枝澤作は華やかな行為に老いの直感を捉え意外性がある。いわきり作は時代を超えた親から子への純愛に心なごむ。堀江作はこの上ないのどかな奈良風情。津田作は寡黙なマドロスを通して人の世の孤独が懐かしく描かれている。

[寺井 谷子 選]
冬青空いのち晴れとも言はむかな (磐田市 戸塚 徳子)
精いっぱい生きて卆寿に魚は氷に (日野市 野田 哲士)
万緑の力の中に入りたり (千葉市 笹沼 郁夫)
箔押しの技をなりはひ雁渡し (和歌山市 中筋 のぶ子)
薇(ぜんまい)にほねどかれてゆく宇宙かな (国東市 岸本 千鶴子)
ヒロシマの西日にオバマ大統領 (高槻市 上村 篤信)
夏深し母死ぬまでは死ねぬわれ (稲城市 山口 佳紀)
遠巻きにひるねのゆめを眺めをり (金沢市 醒ヶ井 町一)

(評)「俳句」の世界においても高齢化が言われて久しいが、戸塚氏、野田氏、、笹沼氏の句、日々新たな思いで生き継ぐ力を鮮やかに見せてくれる。それは、その齢にならねば見いだせぬ思いであり、書き継ぐことでこそえられるものであろう。俳句はまた、その時代と共に在る。上村氏の一句はオバマ大統領のヒロシマ訪問を鮮やかに記録する。山口氏の一句は個人的状況を越えて、今の「老老介護」の現況と切実な思い、更に不変の想いを突きつける。他方、夫君の介護句を書き続けてきた中筋氏は、寂び寂びと美しい世界を書き上げ、岸本氏は宇宙という空間までもこの短い詩形の中に抱き取ろうとする。応募回数は少なかったが、醒ヶ井氏の中空からの視点で書かれる句も魅力的であった。

【産経歌壇2016.12.22】
[伊藤 一彦 選]
新札でお釣りを返す店先の雨に備えた朱の傘五本 (羽曳野市 西村 真千子)
乳飲み子をあやす母親乗車して車内の空気ふんわりとなる (伊賀市 槌野 真奈美)
百歳の媼が握手して曰く「二十歳の娘五人のつもり」 (兵庫・太子町 玉田 泰之)
弾数があまりに違い守るだけ 口論すれば妻に敵わぬ (筑紫野市 二宮 正博)
ぼけたかなあ何をおっしゃるお殿様同じよわれも似合いの夫婦 (北九州市 木村 悦代)
大空や青色いくつお持ちなの雲の切れ間のみんなちがう青 (水戸市 小栗 純江)

(評)今年も心に残る作品をたくさん寄せてもらった。それらのなかから六首選ぶのは至難の業だったが、上の六首を選ばせてもらった。一首目の西村さんの作、お客に対する心遣いの見事な店を歌っている。お釣りといい傘の準備といい表現が具体的なので説得力がある。二首目の槌野さんの作、車内の暖かい雰囲気と「ふんわり」の語が言い得ていて読者の心もなごむ。三首目の玉田さんの作、百歳の媼の言葉に私も感心した。二十歳の娘五人分の生気を内に持っているのだから元気なわけだ。四首目と五首目は夫婦の関係を歌った作、時に口論があるにしてもどちらも仲のよい夫婦の歌であろう。ともにユーモアがある。六首目の小栗さんの作、自然に対する感性が豊かですばらしい。

[小島 ゆかり 選]
恋愛をし足りなかった気分残し六十五歳の春が過ぎゆく (東京・世田谷 野上 卓)
貴女逝きやんわりきつい一言が聞けなくなって張りのない夏 (西東京市 東 喜子)
ここでない場所ならどこでもいいと願う齢(とし)も過ぎたり吾が仕事為す (仙台市 野々村 務)
筑波嶺はたちまち晴れて桑摘みの母を抱き込むやうな大虹 (成田市 神郡 一成)
亡き父を想う亡き猫を想うためにあるのか春の余白よ (東京・葛飾 蒼風 薫)
一人居の日本の小さき街の午後エジプト機行方不明即刻に知る (八尾市 三森 康子)

(評)野上卓さんの作品、少々の実感を交えながら、、年齢の感慨をユーモラスにゆたかに詠んだ。65歳だからこそ。歌は人である。東喜子さんの作品、人間関係の微妙な機微を、味わい服か表現した。夏にふさわしい異色の挽歌である。野々村務さんの作品、結句に至る長い人生の時間を思わせる。四句切れの屈折あるリズムが、内容をよく生かしている。神君一成さんの作品は、スケールの大きな構図の見事さにはっとする。自然のふところに抱かれる「桑摘みの母」がいかにもなつかしい。蒼風薫せんの作品、一首全体の揺らぐようなリズムに詩的なセンスがある。魅力的な感傷を誘う歌。三森康子さんの作品、ふだん気づかない現代日本の驚くべき事実。「一人居」の生かし方がすばらしい。ほかにも秀歌多々。ありがとうございました。

【産経テーマ川柳】年間賞2016
マドンナも薬持参のクラス会 (貝塚市 長岡 正広)
(評)「私、アルコール類は嗜みませんの。お薬いただきますので、お水を」だとさ。我々も年取ったな。

お互いに鬱を育てる嫁姑 (宝塚市 重政 紘二郎)
(評)「いい義母」であり、「いい嫁」なのですが、それがいけないのかもしれません。本音で会話を是非!

割箸を実家で出され客となり (寝屋川市 片岡 洋介)
(評)たしか抽斗(ひきだし)の中に私の箸が入っていたはずなのに、なんで割箸なの? 私のお箸出してよ。

ストレスの元はと聞かれあなたです (枚方市 安達 芳雄)
反自民が水と輪部等を結び付け (横浜市 平元 亘)
早く寝りゃトイレの数が二回増え (東京・江戸川 高島 広衛)
メーターが着くと同時にハネ上がり (綾瀬市 松枝 克治)
その大豆産地はどこかと鬼が聞く (鎌倉市 竹内 敏郎)
ここかしこ傘寿卒寿の二人組 (勝浦市 岡元 邦武)
ひょっとしてホワイトハウスの住人に (東京・藁川 諏訪 克己)
出来ちゃって結婚生まれて離婚 (寝屋川市 片岡 洋介)
背の高い人に不向きな葡萄狩り (鳥取・岩美街 田中 悦子)