(S/N 202600321 / Studio31, TOKYO)
午後のにわか雨が通り過ぎた後、観光客の足が途絶えた佐助ヶ谷戸の小径で道を聞かれた。
バイクに乗ったそのコは、源氏山公園を越えて北鎌倉まで自転車で行けるでしょうかと言った。
どこから来たのか聞きたかったけれど、なぜか言葉が出なかった。
【The Beach Boys - I Get Around】
(S/N 202600315 / Studio31, TOKYO)
ところで、太陽は時速160万キロメートルという、ちょっと想像し難いスピードで銀河系宇宙を楕円を描きながら回っていると言われている。でも、そんな速さでも一周するのに2億年もかかるとか…。
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人が宇宙を研究する時、そのままの数字では桁が膨大で扱いづらい。そこで偉い人達が、その2億年を2億分の1にスケールダウンして、1宇宙年と呼んでいると聞いた。大雑把な計算をすれば、1宇宙秒は、およそ6.3年。例えば西暦零年は、たった5分30秒前ということになる。
ぼくが水口イチ子を知ったのは、宇宙秒に換算すると、今からおよそ5秒前。この先50年一緒にいたとしても、残りは、あと8秒あるかなしか…。
つまり、人生はそう長くはないということだ。
【The Searchers - When You Walk in The Room】
(S/N 202600314 / Studio31, TOKYO)
二十代の頃、ヴァレリーの『カイエ』に手を出し、理解出来ず撃退されたことがある。食べ物で言えば咀嚼できないという以前の問題で、口に入れることすらできなかった。なんと言うか、口にし難い味覚と言うか未知の珍味の類だった。いずれ歳がいって分かるようになったら読もう、とすら思わなかった記憶がある。
ところが、ここ数年前から始めた書庫の整理で、久々に手に取ったカイエが多少は面白いと思えるようになっていた。我ながら不思議な進化だ。
今、その第一巻が机の端にあって、日々、数行ずつ読み進めている。
なるほど『カイエ』は、過去の文学者達が自らの著作に引き合いに出すことがなくても、常識的な教養の一環としてみんなが読んだに違いないオーラを発している。これは、自称教養人や自称文学者も含め、読む者みんなにとって聖書のようなものかも知れない。通読すると言うよりは、常に傍らに置き、一行一行を精読し、理解に努める書物といった位置づけだ。
カイエ日本語版全集は、全九巻にヴァレリーの五十年分の思索ノートがまとめられている。今のような読み方をしている限り、死ぬまでに読み終えられるはずはない。可能か不可能かという能力的な問題ではなく、人生にその五十年分を読了するに必要な残り時間がない、という簡単な引き算の問題なのだ。
【Starship - Nothing's Gonna Stop Us Now】
(S/N 202600312-2 / Studio31, TOKYO)
COVID-19が流行るもっと以前に遡るが、仕事終わりに気が向けば立ち寄る居酒屋があって、行けば必ず誰か顔見知りがいた。場合によれば、そんなふうに一人二人と集まってきて最後は小上がりを占領して宴会になってしまうこともあった。
そういうメンバーのに中高一貫の私立校に通っていた頃の後輩がいて、年齢が干支ひとまわり以上違うのに、たまたま教えを受けた先生の思い出などが共通していて、彼とはついつい話し込むことも多かった。
母校が時折思い出したように発行する卒業生名簿があって、興味があったのか彼は、それでぼくを調べたらしい。同じものを持っていながら自分では見たこともない名簿には、資料として生徒が卒業時に書いた『将来なりたいもの』という項目があって、ぼくのその項には『フリーのライター』と書いてあるらしい。
記憶にあるところでは俳優の中尾彬さんが仕事の話で、生活費を稼いでいるのは俳優・タレント業だが本職は絵描きだと言っているのを何度か聞いた覚えがある。また、俳優・六平直政さんも同じように本職は彫刻家だと公言している。そんなふうに生業と本職を住み分けている人というのは、公言しないまでも世の中には存外沢山いるようだ。
今の自分に当てはめれば、不自由のない生活費を稼ぐ職業が別にあって『好きなことを好きな時に好きなように書いて、決して〆切に追われることのない生活』を実現しているわけだし、そんなことからすれば、ぼくの『フリーのライター』だって夢は叶えられていることになる。そして、それだけで充分に楽しい人生なのにファン・メールまでくれる人がいたりして...。これ以上の何かを望む程、ぼくは欲深くない。
【Rick Mathews - I Want To Make You Happy】
(S/N 202600311-2 / Studio31, TOKYO)
どこでそのレコードを手に入れたかは、今はもう思い出せない...。1975年にアメリカでリリースされた輸入盤 —— Jessie's Jig and Other Favorites / Steve Goodman.
彼、スティーヴ・グッドマンの年譜によると、これは3枚目のアルバム。逆算すると、僕がまだ大学生だった頃に買ったようだ。収録されている曲目を見ていたら、ジャズのスタンダード・ナンバー "It's a Sin to Tell a Lie (嘘は罪)" のギターの速弾きをコピーした記憶が蘇ってきた。
スティーヴ・グッドマンというと、傑作"City of New Orleans" の作曲者として有名。しかし、最初にヒットしたのが1972年のアーロ・ガスリー盤だったので、それ以来だいぶ長い間、アーロの作曲だとばかり思い込んでいた。
一度聴いたら耳から離れないメロディーのお陰で、カントリー・ミュージック・シーンでは、それをカバーするアーティストが続出 —— 今、日本では20以上のヴァリエーションを聴くことができる。そのうちのひとつ、ウイリー・ネルソン盤が1984年にリバイバル大ヒットすると、ようやくグラミー賞から作曲者のスティーヴに声がかかる。しかし、実はその時、彼は、もうこの世にはいなかった。受賞のわずか半年前、血液の癌で亡くなっていた。36歳だった。
彼の死の翌年に行なわれた友人達による追悼コンサートの収益金25万ドル(約3億円)は、全額、白血病調査機関に寄贈され、『本田美奈子』の "LIVE FOR LIFE" 活動のモデルとなった。
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『おはよう、アメリカ、元気?
ボクがキミの息子だっていうこと、知ってるかい?
人はボクを"『ニューオリンズの街』号"って呼ぶ。
一日が終わる頃、ボクは500マイルも向こうだ。』
このコーラス部分は、スティーヴと同世代の歌好きなアメリカ人なら、ほとんどの人が歌えるようだ。ただ、その内容がアメリカ住まいの人以外には無縁なところが、なんとも残念なのだが...。
【Argo Guthrie - City of New Orleans】