きみの靴の中の砂

きみの靴の中の砂

このサイトは "Creative Writing" の個人的なワークショップです。テキストは過去に遡り、随時補筆・改訂を行うため、いずれも『未定稿』です。

(S/N 20260212-2 / Studio31, TOKYO)

 





 吉田健一の短編『辰三の場合』の冒頭に次のような部分がある  ——  小説の書き出しとしては、はなはだ掟破りでアナーキーだが。

 小説というものは妙なもので、空で小説を書くことを考えていれば、言葉が幾らでも頭に浮かんで来て繋がる。
 丹念にノートなどを取ってから仕事に掛かったところで、ノートはノート、それを使って始めたつもりの仕事はまた別なもので、言葉に弾みが付いてノートに書いてあるのとは反対のことが出て来ても、それでは話が違うからというので引っ込めるのも惜しい気がすることがある。ノートを取っている時は、そう何にでも眼が配れる訳ではないので、それが出来る位なら、そんなことをしなくても書ける。つまり、どっちにしても、ノートなどというものは当てにならなくて、話が頭の中で決まっていても、いなくても、書き出せばその通りに行かなくなる。言葉に弾みが付くというのは、漸く何か感じが出て来たことで、そうすると人物の方も勝手に動き始めるだろうし、それが小説家、あるいは小説家は違うならば、小説の読者の念願である以上、小説家も人物の勝手にさせて置く他ない。それ故に益々ただ書いて見るだけのことなのである。

 吉田特有の、いつもながらの不思議な文体。人が『書くという行為』の扉を叩く時の心構えとして含蓄に富む一節である。



 文章を書く者にとって短篇『辰三の場合』は、執筆に行き詰まった時の解決策指南書をも兼ねる。

 






【Roman Andrén - Til Another Day】

 

 

(S/N 20260212 / Studio31, TOKYO)





 雑物ひしめく、埃をかぶった棚の一角を片付ける。
 突然、昔、無人の山小屋で灯した、古い使いさしの蝋燭が現れた。

 半径十キロ以内には、まず誰もいそうもない、丹沢の山また山のそのまた向こうの山の頂き近くに、ちっぽけな避難小屋があって、そこにひとり泊まった夜のことだ  ——  折れて地に落ちた枝や枯れ葉が、冬のさ中の風に吹かれて、地表をひたすら右往左往していたものだ。それらが地を這う音は、ちょうど人や獣が何か曰く有り気に忍び寄る時の、あの足音にも似て大層恐怖したのが思い出される。

 あの夜、風が隙間漏る小屋の卓子の上で、暖かい光を灯していたのが、この蝋燭であった。

 






【Mick Hucknall - One Of Us Must Know(Sooner or Later)】

 

 

(S/N 20260211-3 / Studio31, TOKYO)

 

 

 

 

 何も予定のない夜の定番ムービー『東京ワンダーホテル』。

 

 上原多香子ファンと言うことではない。ましてやユースケ・サンタマリアでもない。

 

 

 

 

 

【佐藤竹善 - トーキョー・シティ・セレナーデ】

 

 

(S/N 20260211-2 / Studio31, TOKYO)

 

 

 

 

 同じ呼称であっても作り手によって見た目の違うモノが世の中には沢山ある。

 

 これは馴染みの鮨屋で季節になると『鰹の叩きの盛り合わせ』と言って頼むのだが、他の鮨屋でも作ってもらえるとしたら、見た目は鮨屋ごとに違うものと理解しておくのが無難だ。

 

 初鰹は、東京では、あとひと月するかしないかで市場に出回ってくる頃合だ。

 

 

 





 ローズ・イワナガ(Rose Iwanaga)については出自が全く知れない。確かなのは、マレーシア国籍であるということくらいである。生まれは、恐らく戦前の1940年代初頭。レコーディングのためにマレーシアからシンガポールに渡り、フィリップスから何枚かのシングル盤とアルバムをリリースしている  ——  シンガポール・フィリップス社史上初の英語による録音であったという。


 わずかな資料によれば、1990年代後半までシンガポールのナイト・クラブなどでその歌声は聴けたそうだが、その後のことについては一切不明である。

 彼女がデビューした'60年代は、シンガポールも欧米や日本と違わず、ガールズ・グループや女性歌手の業界進出が活発で、そんな中にあって、ローズ・イワナガの声の可愛らしさは群を抜いており、シンガポールの中古レコード市場では、今も彼女の録音盤は高価で取り引きされていると聞く。

 ここで歌われている”Too Young”は、言わずと知れたナット・キング・コール1951年の世界的ヒットである。

 






【Rose Iwanaga & The Avengers - Too Young】


【何回か加筆訂正しているので、この初稿がいつ頃のものだったかは記憶に薄い。本日の改稿以前、最後に手を加えたのは『2016/4/9』なので、初稿はもっと前になる。
 初稿の頃はインターネットで検索しても『Rose Iwanaga & The Avengers』の記事はほとんど見当たらなかったが、今日、同様の検索をしてみるといくつかの記事がヒットする。その後の何年間でリバイバルされたようだ  ——  ボルネオ・ポスト紙電子版に『Rose Iwanaga and her Evergreen Dancers and the songs from GCM Karaoke group(http://www.theborneopost.com/2015/05/17/rose-iwanaga-and-the-evergreen-dancers/)』というのを見つけた。】

 

 

(S/N 20260210-2 / Studio31, TOKYO)





 『目的』には達成をゴールとする場合もあれば、そこに至るプロセスを楽しむだけのケースもある。

 前者が少なからず苦悩や挫折を伴う反面、後者には人生を癒す楽しみがある。

 






【Yoyo International Orchestra - I Will】

 

 

(S/N 20260210 / Studio31, TOKYO)





 自分のために簡単な食事を用意する朝。

 あり合わせのパン  ——  ブールかバタール  ——  のスライスを二、三切れ。それにバターと二種類のジャム。加えてマーマレイドがあれば、より嬉しい。他にチーズとハムをほんの少し。

 飲むのはミルクティーだけ。アールグレイかレディグレイをその日の気分で選ぶ。

 時間に余裕があれば、食べながら新聞二紙の『文化欄』を丁寧に読む。他に大したニュースがなければ、ナボコフやケルアックのエッセーを一頁だけ読むこともある。

 これらは習慣というより、いち日を始めるひとつの手順。

 






【Sheila - Enfin reunis】

 

 

(S/N 20260209 / Studio31, TOKYO)

 

 

 

 

 高校を卒業したあとすぐには大学へ行かず、親のお金で二年ほど、お茶の水駿河台あたりで遊んでいた。

 

 『梅花亭ギャラリー』という小品を構想したのは、そんな頃のことだ。

 

 夏の夕暮れ、麻布十番をバスで通りがかったとき、車窓からその名の画廊を見つけた。それを口に出してみたら語感が気に入り、なにかしら小品にしたいと考えたのだったが、結局、それは成就することなく時間は過ぎた。

 

 そのとき書き上げられなかった『梅花亭ギャラリー』への思い入れが今も頭の隅に残る。完成しなかった理由は、当時、流行っていたウルフ・カットのきみを想う気持ちがミューズの機嫌を損ねたと今は理解している。

 

 

 きみは、アテネ・フランセの一年生になっていた。

 

 きみの学校帰り、駿河台の『Lemon』というティールームででよく待ち合わせた  ——  レモンは、フランス語ではシートロンというのよと教えられたのを覚えている。

 

 三十歳を過ぎてお互いに独身だったら結婚しようと、お互いに保険を掛け合ったものの、結局、それを行使するには至らなかった。

 

 

 

 

 
 
【Hitomi Tohyama - Our Lovely Days】