空の欠片―魂葬屋奇談 (C・NOVELSファンタジア)/九条 菜月
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 本日ご紹介するのは、九条菜月さん作『空の欠片 魂葬屋奇談』です

 この作家さんは以前『ヴェアヴォルフ オルデンベルグ探偵事務所録』 という作品でご紹介しました

 『ヴェアヴォルフ』が大変面白かったので、別シリーズのこの作品にも注目していました

 私の場合、特定のシリーズに入れ込むと、その作品の世界観を大切に思うあまり、別コンセプトの作品に対して躊躇することが往々にしてあります

 「魂葬屋奇談」シリーズにもそういった思いが無きにしも非ずだったのですが、思い切って読んでみてよかったと思います

 20世紀初頭のヨーロッパを舞台にした「オルデンベルグ探偵事務所録」シリーズとは違い、「魂葬屋奇談」シリーズは現代が舞台ですが、それぞれ世界設定がツボに入りました

 「魂葬屋奇談」シリーズは、現代日本の高校生活をベースにして描かれます

 そこにファンタジー要素として、死後の世界の住人を登場させています

 魂葬屋と名乗るその人物の役割は、不慮の死に遭い、この世に留まってしまった魂を成仏させることです

 突然の死を遂げた魂は、魂が欠損してしまって成仏できないので、欠落部位(魂の欠片と呼ばれます)を探し出し、魂を補修することで成仏させることが出来るという設定です

 主人公は、普通の人には見えない霊的なものが見える特殊な能力を保有しています

 その能力を買われて、魂葬屋が魂の欠片を探す手伝いをさせられるというストーリーです


 相原深波は男子高校生

 ある日、同級生の須藤楓が学校の3階にある音楽室から転落死しました

 音楽室の窓には転落防止の手すりがついており、事故ではないようです

 転落の状況に不審な点があることから、警察が捜査を開始します

 そんな時、学校の中で他校の制服を着て歩き回る少年に出会います

 その少年は魂葬屋のユキ

 ユキは普通の人の目には見えないはずの自分の姿が深波には見えていることに驚き、深波に自分の仕事の手伝いをせよと迫ります

 ユキの仕事は、成仏できない須藤の魂を補修して、成仏させること

 不信感でいっぱいの深波でしたが、押しの強いユキに巻き込まれ、魂の欠片の行方を探すことになります


 魂の欠片は、死を迎えたときに傍にあったものにくっついている可能性が高いことから、転落現場や遺留品を調査しますが、欠片は発見できません

 何らかの理由で遺留品が持ち去られていたとしたら?

 須藤の死には第3者が関わっている可能性が強くなります

 それは須藤を殺した犯人なのでしょうか?


 設定はファンタジーですが、ストーリーの性質上ミステリ要素も多分にあります

 主人公の深波の年の離れたお兄さんが刑事さんだし

 超能力抜きで捜査するし

 本格とは言えないまでも、事件の謎解きもあるしで、ミステリとしても楽しめると思います

 また、主人公が思春期の高校生ということもあって、成長物語としても楽しみです

 さらに、押しが強く底抜けに明るい魂葬屋のユキのまだ語られないバックグランドには陰の気配があり、物語に深みを与えています


 この作品に興味を持った方に他にもおススメする作品があります

 神永学さん作『心霊探偵八雲』です

 この作品は、霊を視ることができる赤い左目を持った男子大学生が主人公

 その瞳をもってオカルト絡みの事件の謎を解きます

 『心霊探偵八雲』はシリーズ化されており、角川文庫から順次文庫化しています

 それから、赤川次郎さんの『三毛猫ホームズの傾向と対策』です

 大学教授殺害事件とその裏に隠された受験に関わる大掛かりな犯罪の謎をホームズと片山が追いかけるというストーリーです

 『空の欠片』とは事件の真相が似ています

 本選びの参考にしていただけたら幸いです