ヴェアヴォルフ‐人狼―オルデンベルク探偵事務所録 (C・NOVELSファンタジア)/九条 菜月
¥945
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 書店で見かけて以来、ずっと気になっていた作品の一つです

 文庫落ちするまで待とうと思ったんですが、気になりすぎてノベルスで買っちゃいましたahaha;*


 いや~期待を裏切らない作品でした

 舞台は20世紀初頭のベルリン

 探偵事務所録と銘打たれているだけあってミステリ要素も満点ですが、ファンタジーにカテゴライズしたのには訳があります

 登場人物が人間ではないんです

 狼男とか、吸血鬼とか、ゴブリンとか、ピクシーとか…

 それだけ聞いてもワクワクするようなファンタジーを予感させますよね


 作品の世界観を簡単に説明しておきましょう

 この世には人間やその他の動植物が生息しているように、狼男や吸血鬼などの一般に化け物と呼ばれる存在が実在している、という前提で作品が描かれています

 この人間以外のものたちは、人間の急速な発展に伴って居場所をなくし、淘汰され、今や絶滅に危機に瀕しています

 人間と人間以外のものたちを共存させ、絶滅から免れるために組織された自助組織、それがオルデンベルグ探偵事務所です

 人社会に同化するためオルデンベルグ探偵事務所では表向き一般の探偵業務を請け負っていますが、その裏では人間以外のものたちを救うために奔走しています


 というわけで、探偵事務所の裏向きの仕事を担当してるのは人間以外の種族です

 主人公の探偵・ジークフリートも人間以外の種族です

 ジークは所長のアルフォンスから、曲芸団で見世物にされていたところを救出した人狼の子ども・エルの世話を押し付けられます

 しかし、単なる世話にとどまらず、エルを巡る陰謀に巻き込まれることになるのです


 人狼の少年の保護、連続殺人事件、軍関係者の蠢動、列車爆破事件などなど、様々な事件や謎がフィナーレに向けて集約していく様は圧巻

 ファンタジーと侮るなかれ

 計算されつくしたストーリー構成は、読者を作品世界に引き込みます


 侮るな、と言えば、本作のテーマ

 人ならざるものへの差別の問題が取り上げられているのですが、これはそのまま人種差別に置き換えることが出来ます

 自分たちと見た目や性質が異なるからといって、それを理解しようとせずに異物と見做すことの愚かしさや哀しさが全編を通して描かれています

 作者がこのテーマに対して真摯に取り組んで書いたことがひしひしと伝わってくる良作です

 取っ掛かりはファンタジーかもしれませんが、この世のどこかで起きている(あなたの身近でも起こっているかもしれない)問題に思いを馳せました


 さて、この作品を気に入った方におススメする次なる作品は、高里椎奈さんの「薬屋探偵妖綺談」シリーズです

 私は第1作『鉄の檻を溶かして』と第2作『黄色い目をした猫の幸せ』 しか読んだことがないのですが、その2作から判断するに、ミステリ要素を含んだファンタジーであること、ファンタジーではありながら取り上げる問題が硬派であることが共通しています

 登場人物も「人間ならざるもの」であるところも共通点ですね

 あ、それと『オルデンベルグ探偵事務所録』はシリーズ化されていて、『ヴァンピーア』『ヘクセ(上)(下)』と続刊が出ています

 勿論、私もこれから読む予定です!

 同作者の「魂葬屋奇談」シリーズも気になるところ…

 要チェックです