皆さま、日々、健やかな体とこころでお過ごしでしょうか?

 

 わたくしは相も変わらずこころのままに過ごしております。

 

 皆さまが思うよりも健康です。

 

 

 本日は少し趣を変えまして、どうしても皆さまに思い出を語らせて頂きたいと

 

 思います。お時間ございましたらお付き合いくださいませ。

 

 

 わたくしは若い頃、夏にも冬にもお外で汗をかくお仕事をいたしておりました。

 

 いつか羽ばたくその日まで、このように汗にまみれる仕事をするのも必要な

 

 プロセスなのだと信じて、仲間と一緒に重たいものを上に下に、右に左に、

 

 移動させてはあーでもないこーでもないと皆と相談してチームワークで朝から

 

 夕方まできっちり働いておりました。

 

 仲間にひとり、面白い方がおられました。

 

 彼の名はオバタさん(仮名)。ある意味で伝説の男として語り継がれた男

 

 なのでした。わたくしはどうしても彼の事を忘れられません。

 

 ある時、彼と一緒に重たいものを運んでいる時、彼が「つっかえて運べない」

 

 と言うのでわたくしが彼の代わりに運んでみました。普通に運べたので、

 

 わたくしは「なんで?」と聞くと「真っ直ぐにしてたら運べなかった」と

 

 彼は言いました。「なんで斜めにしないの?」と聞くと、「その発想は

 

 なかった」と返ってきました。その頃はまだよく彼の事が分かっていなかった

 

 ので、「ふーん」くらいにしか思っていませんでした。

 

 今にして思えば、あれが伝説の始まりだったのでしょう。

 

 またある時、彼が軍手を片方しかしていない時がありました。

 

 わたくし達の仕事は手運びで重たいものを移動させるので軍手は欠かせません。

 

 それも手を防護するために指と手の平の部分にラバーのある、ごっつい軍手が

 

 不可欠なのです。わたしは尋ねました「オバタさん(仮名)軍手どうしたの?」

 

 すると答えはこうでした。「軍手3個持ってきたんだけど全部右手だった」

 

 そんなことある?3つ持って来て、全部右手?ってことは家に左手の軍手が

 

 3つ残ってるってことでしょ?ウソやん?マジで?

 

 わたくしはそれ以上何も聞けませんでした。

 

 そうです。彼はある意味で豪運の持ち主だったのです。

 

 彼が親のクレジットカードを使って300万円ものお金をスロットという遊戯に

 

 使い込んでしまっていたのは仲間内では有名な話でした。お父様には髪の毛を

 

 鷲掴みにされて「お前はまだ分かんねえのか!」と言われ、なかなかバイオレンス

 

 なお仕置きをくらったそうです。やはり大物はストーリーの凄みが違います。

 

 そして彼は元調理師さんでもありました。お金を節約するために毎日キャベツ

 

 だけを食べるという生活を送っていたそうです。

 

 結果、栄養失調でダウンし、そのまま病院に搬送されたそうです。

 

 オバタさん(仮名)の生命力に乾杯。

 

 しかし彼はとても愛すべき人でもありました。わたくしが強調したいのは

 

 その点なのです。

 

 ある日の仕事終わり、彼が突然姿を消したのでわたくし達は彼が先に帰ったのだ

 

 ろうと思い、帰り支度をしておりました。するとどこでやら作業着を着替えて

 

 彼が戻ってきたのです。「オバタさん(仮名)、どこ行ってたの?」と聞くと

 

「パンツ履くの忘れてきたからトイレで着替えてた」と彼は答えたのです。

 

 わたくしは・・・、いいえ、もう何も語る事はございません。

 

 何も語れないのです。

 

 繰り返しになりますがオバタさん(仮名)は愛すべき人でした。

 

 とても大切な仲間であり、愉快な友人でした。

 

 仕事ぶりはまあまあ普通でしたが、その人となりは面白おかしい人でした。

 

 彼は今、どこで何をしているのでしょうか?

 

 きっと元気にしている事と思います。

 

 少なくともわたくしはそう信じています。

 

 また彼と一緒にビールを飲みたいものです。

 

 以上、もう20年以上も前の思い出でした。

 

 皆さまにおかれましても、友情と思い出を大事になさってくださいませ。

 

 それこそが一生の財産かと思います。

 

 ではまた美しい思い出の中でお会いいたしましょう。さようなら。