クラブ遊びの作法 | バーテンダーは心の名医

クラブ遊びの作法

 夜の道62年の昭和のダンディにお尋ねします。

 夜の紳士道 クラブ遊びの作法 をお教えください。

       (実業家)

 松尾和子さんの 『再会』 に クラブ遊びの真髄があった頃、私は銀座、片

 町戦線のど真ん中で、肉弾相見互いの肉弾戦をかい潜って、夜の紳士道の

 荒行を積んできた。

  まあ、昨今は、松尾和子さんの 『再会』 なんて流す店がなくなって、静かな

 渋い男の夜が無くなってしまった。

  私はこの曲が流れると反射的に

 「踊ろうか」

 と誘ってしまう。

  踊ろうかと言ってもソシャールダンスを踊るわけでない。ステップなんて必要

 としない 『再会』 こそに、クラブを凝縮しているものはない。

 いやいやサックドレスの似合う、生地でいえば純白の絹のような、それでいて

 オロロソの樽に数年間寝かせた、人類が生んだ最高の香水 スペイ、モルト

 ウイスキーの艶熟の香りと、白ユリの香りをマリアジュさせ、そこにレモン絞り

 込んだ ああ、こんな女は危険だ。生涯で会うことは絶対に逢うことない とい

 う絶せの美女を抱き寄せる。こんな女性と付き合ったらさぞかしダメージが残

 るだろう。

  『再会』 よりもこちらが主役なんだが、昨今は、飲みましょう、酔いましょう、

 とことん歌いましょう、騒ぎましょう、お持ち帰りだと情緒がない

  閉店近くになると、  『オールド・ラング・サイン』 が流れる。

 「オールド・ラング・サイン」別離の時に歌う スコットランド民謡 日本では「蛍

 の光」と訳され卒業式で流される。

 そうじゃない

  「別れて離れ離れにはなるけど、きっとまた会いましょう」

 という意味合いがある再会の歌なのだ。

 

 「オールド・ラング・サインだけは、あなたと踊りたい」

 

 どうする!

 私は、松尾和子の『再会』と『オールド・ラング・サイン』の流れなくなった夜から

 遠ざかっている。