食べたくてしょうがない | バーテンダーは心の名医

食べたくてしょうがない

 先生の食べたくてしょうがないものは何ですか。

       (調理人)

 生れてこのかた、会席料理、三ツ星レストランのコース料理、入れ替え制の料

 理屋とかは、食べたくてしょうがなくなることはなかった。癖になることもなかっ

 た。病みつきになることもなかった。

  小学校の4年の時、生まれて初めて、支那そば を食べた。日本なのか支那

 なのか、どこまでもあいまいな 支那そば。 決してラーメンなんかじゃない。か

 といってラーメンなのですが、今みたいなこってりだとか、ギラギラといったもの

 じゃない本格的なのか、本場ものななのか、それさえもわからない 支那そば

  しかし、支那竹の戻し方たるやは、やわらかく上品な筍の味噌煮込み いや

 そうではない、これぞ中国四千年の歴史の原点という宮廷料理風なんです

 が、あのどこまでが日本でどこからが支那なのかわからないスープにのせると

 これが、蟹のような、イカのような、良い味となって5,6本しか入ってない支那

 竹が大変な貴重品となる。そこに退廃的な赤い食紅の焼豚が一枚。

 スープをひと口含むと、頭の天辺までしびれるような、めまいが体を震わせる

 大感激にひたってしまった。

  白飯と一緒に食ったのだが、飯はお代わりものだった。

 今でも 支那そば の看板を見ると飛び込んでしまう。

 最近では、東京でも横浜でも,支那そば を求めて陋巷している。4軒見つけて

 あるのだが教えない。ゆったりと 支那竹と窯焼きの焼豚 で飲みたいものだ

 から。

  滅法食べたくなる食べ物屋は教えないのが親切なんだから。

 何故ならば。あなたも私のように病みつきになってしまうのだから。

  ああ、食べたくてしょうがない。