2009年9月30日に発売された辻さんの新刊『ダリア』。
おフランス的で、芸術的で、幻想的で、構成も凝っていて、そりゃもう、素晴らしい境地です。数ある辻作品の中でも、これは完全に私の中では上位にランクインしました 結構過激な性描写があるんですが(辻さんのはいつもそうかも?)、純粋にお話として面白かったです 私はこういうの好み
帯の言葉。
「若い男が家に来るようになって、妻が作るスープの味が濃くなった―。」
フランスSeuil社より仏語訳刊行が早くも決定
文芸誌「新潮」に掲載された7つの短編、プラス書き下ろし短編1つ収録されています。この8つの短編ですが、登場人物は全て同じ。出来事が繰り広げられる場所も同じなのですが、各物語の視点が違うのがミソです。祖父、夫、妻、娘、兄、弟、犬、そして、謎の美しい青年・ダリア。タイトルはこの青年の名前です。
裏表紙の帯には、こう書かれています。
「あんたは自分の幸せを呪って、それを壊したいと願いながら生きてきた。俺はあんたの望みを叶えるために、ここにいる」
父も、妻も、娘も息子たちも、さらに愛犬までもが、褐色の肌の美しい青年の虜になり、そして、家族のすべてが変わっていく―。
各短編の視点は、恐らくこうです(間違っていたらごめんなさい)。
「生きているものたち」・・・祖父
「ほら、お前の犬が見ている」・・・妻
「妻の恋人」・・・夫
「覚めながら見る夢」・・・弟
「でも決して光りを捕まえることなど出来ないのに似て」・・・娘
「目覚めた後の夢」・・・兄
「夢の尻尾」・・・夫
「時の意向」・・・ダリア
私が特に印象に残っているのは、「生きているものたち」、「ほら、お前の犬が見ている」、それから「覚めながら見る夢」です
「生きているものたち」は、普段辻さんがよくブログにも書かれている、生の世界と霊界との重複というか共生を描いています。ああ、なるほど、とこれまでにない価値観を教えてもらいました。
「ほら、お前の犬が見ている」は、いやあ~、これ、すごかったです。今でも画像が頭に浮かんでしまいそうです。
「覚めながら見る夢」は、光と陰の描写が秀逸で、太陽が雲に隠れたり出てきたりすることで変化する情景が目に鮮明に浮かび上がりました。弟と祖父のやりとりが心に残ります。
そして、この作品集を通してひしひしと感じたダリアという美青年の不気味さ。このダリア、いちいちいいタイミングで気味悪く登場するので、ドキッ、としてしまい、最後までグイグイ引っ張られながら読むことができました
辻さんの小説は、いつもラストがスピード感があり、五感をフル回転させられ読める物語だと思います。だから、ジムで運動するような感覚になります。不思議です。
辻さんの作品は、選ぶものによってかなり作風や文体が違うので、それがまた面白さの一つです。バラエティに富んでいますよね。ただ、エンターテイメント系のように臨場感ある会話形式でどんどん出来事が進行する小説を好む人には、純文学っぽい難解な漢字、情景描写、一人称にも似た独白形式?(←よくわからないのに書いています)に対して多少は違和感を感じることがあるかもしれません。
いやあ~、『ダリア』はパリジャン、パリジェンヌにも絶対に気に入られますね さすがは作家生活20周年のプロの技。お見事です、辻さん