私の中では、イギリス文学における傑作です
アメリカの大学のカフェテリアで、デビューしたばかりのシェリル・クロウがBGMで流れていた。彼女のファーストアルバム『Tuesday Night Music Club』 の1曲目「Run, Baby, Run」の歌詞を聴いた時、「うぉ~!」と感動しました。
なぜなら、ハクスリーのことが出てきたからです。
She was born in November 1963 the day Aldous Huxley died
彼女は1963年11月に生まれた オルダス・ハクスリーの死んだ日だった
シェリル・クロウは、深いアーティストなんだなぁ~と思った記憶があります。
『すばらしい新世界』は1932年に書かれています。今から75年以上も前の作品なのに今読み返しても古くさくなく、むしろ新しいのです。科学の進歩によって発達した行き過ぎた文明社会を批判しています。ハクスリーは、嫌味と皮肉からその“悲惨な社会”をあえて“すばらしい新世界”とネーミングしています。
どういう世界かというと……。
家庭はいざこざのもと。だから、人口受精やフリーセックスを推奨し、家庭という組織体を完全否定。
条件反射教育をし、階級制度を作る。
要は、知識層には絵本を読んでいる時にいい気持ちにさせ、労働者階級に割り当てる場合には本を触る度に電気ショックを与え、一生涯本を怖いと思わせて手にとらないようコントロールする。
より効率的な国家をつくる目的で、精神的苦痛を人間から一切合財取り除く。故に、全員ソーマという錠剤を合法的に持ち、気分が悪くなるたびに飲む。誰も苦痛な人間はいない。皆がいつでも気分がいい社会。
病気も死もない。徹底した管理社会。それは、まるで全体主義を彷彿とさせるような……。
ユートピアのようで、実はディストピア。
そこで、その社会に馴染めない野蛮人が主人公として描かれています。
野蛮人(=普通の人間)の訴えが最後にものすご~く心に響きます
「わたしは不幸になる権利を求めているんです」
「それじゃ、いうまでもなく、年をとって醜くよぼよぼになる権利、梅毒や癌になる権利、食べ物が足りなくなる権利、しらみだらけになる権利、明日は何が起るかも知れぬ絶えざる不安に生きる権利、チブスにかかる権利、あらゆる種類の言いようもない苦悩に責めさいなまれる権利もだな」
永い沈黙がつづいた。
「わたしはそれらのすべてを要求します」と野蛮人は答えた。
自由と恐怖はコインの裏と表。不自由と安心も然り
あのマルクスに想いを馳せ、今の日本社会についても考えさせられます。
この作品を読むと、突然「不都合さは素晴らしいのかも!」と思えます。
やはり、偉大な作品はずっと残るはずです
洋書でも読みましたが、ツラかった