林業における環境パフォーマンスとは、森林資源の伐採、育成、運搬といった事業活動が、森林生態系、土壌、水資源、炭素循環、生物多様性などに与える影響をどの程度管理・低減できているかを示すものです。

ISO 14001では、組織が自らの「著しい環境側面」を特定し、これを継続的に改善することが求められており、林業はその典型的な対象業種のひとつです。

 

林業の特徴は、「自然そのものを扱う産業」であること。適切な環境配慮を行わないと、山地災害、土壌劣化、野生動物被害、違法伐採、生物多様性の喪失などの深刻な環境問題を引き起こす可能性があります。

 

《環境パフォーマンスの具体例と取組み方》

以下に、林業に特有の著しい環境側面の具体例と、それに対する実践的・制度的に正当な取組み方を示します。

 

1)森林伐採による土壌流出・山腹崩壊のリスク

<具体例>

過度な皆伐や急傾斜地での機械伐採によって、雨水が表層土を流出させ、山腹の崩壊や濁水発生につながる。

<取組み方>

・伐採前に地形・土質調査を行い、伐採区域のゾーニングを実施

・伐採後は速やかに林地残材を除去し、植林や草本植物による被覆を行う

・山腹への水路設置や間伐材での土留め施工により、表土移動を抑制

 

2)重機作業による地形改変と踏圧被害

<具体例>

作業道の開設やフォワーダの走行により、根系の切断、地盤沈下、路面侵食が生じる。

<取組み方>

・林地開発指針に従い、傾斜角・水流・既存地形に沿った路網設計

・作業道の幅員最小化と、定期的な路面点検・補修

・機械化区域と人力区域を分離し、自然回復を考慮した作業時間と方法を設定

 

3)生物多様性への影響(単一樹種の植林、伐採による生息環境の変化)

<具体例>

スギやヒノキの単一植林により、林床植生の多様性や野生動物の生息環境が失われる。

<取組み方>

・広葉樹や在来種を混交した針広混交林化

・伐採時期を分散し、野鳥の繁殖期や希少種の活動期を避ける

・林床への光環境改善のため、選択間伐を実施し多層構造林へ誘導

 

4)林業由来の温室効果ガス(GHG)排出

<具体例>

森林のCO₂吸収機能が、伐採により一時的に低下。

さらに、林業機械によるディーゼル燃焼でCO₂を排出。

<取組み方>

・森林吸収量と伐採量のバランスを年次で算出し、カーボンニュートラルを目指す

・電動チェンソー・小型電動搬送車等の導入による燃料転換

・森林整備活動に係るCO₂排出量のモニタリングシートを導入し、環境目標に反映

 

5)森林資源の適正管理と再生

<具体例>

伐採後に植林を行わない「放置林化」が進行し、荒廃地が広がる。

<取組み方>

・伐採計画とセットで再造林計画を立案し、補助金制度を活用

・育成段階での下刈・つる切りの定期的実施による成長促進

・自然更新(実生再生)の活用により、作業コストと化学資材を削減

 

6)林業資材(潤滑油・廃オイル)の廃棄

<具体例>

チェンソーや重機から出る廃オイルの河川流出、燃料タンクの漏洩

<取組み方>

・廃油回収缶の持ち運び、油脂の現地廃棄を禁止

・作業時の携行漏洩防止マットの使用

・林内作業区域における緊急時用のオイル吸収材の備蓄と訓練

 

7)地域社会への環境説明責任

<具体例>

伐採計画や林道開設が地域住民に知らされず、景観・騒音などへの不安が拡大

<取組み方>

・地元自治会や森林組合と連携し、事前説明会や現地見学会の開催

・伐採区域や作業予定を看板やHPで可視化

・地域住民の意見を反映する苦情・意見受付体制の整備

 

◆ISO 14001でのPDCA管理と第三者信頼性の確保

林業においてもISO 14001を導入することで、以下のようなマネジメントが可能です。

 

<Plan>

森林施業計画・再造林目標・伐採と吸収のCO₂収支目標の設定

<Do>

環境配慮型伐採手法、地形保全技術の導入、植林活動の実施

<Check>

土壌流出、水質、騒音、温室効果ガス排出量のモニタリング

<Act>

モニタリング結果に基づく路網変更、伐採手順の修正、住民対応の強化

 

さらに、SGEC(緑の循環認証)やFSC認証との整合性を図ることで、環境パフォーマンスの国際的信頼性も担保できます。

 

<総括>

◆林業の環境パフォーマンス向上は、森と社会の共生の実現

林業における環境パフォーマンスの向上は、「木を伐る=環境破壊」という誤解を解き、持続可能な資源循環と山地防災、炭素固定、生物多様性保全を両立させる基盤です。

ISO 14001はその実現のための体系的な手段を提供します。

 

適切な伐採・造林・モニタリングを通じて、「伐って、育てて、守る」林業の本質を実践することこそ、地域経済と自然資本を守る林業の責務であり、環境パフォーマンスを高める道です。

(※ 自分を変える“気づき”ロジカル・シンキングのススメ メルマガ961号より)

 

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