2026年10月3日付の時事通信社が、

『イスラエル便副操縦士、過去に乗務禁止 過激思想から母国オマーンで』

と題した見出し記事を報じていました。

以下に、この記事を要約し、コックピット内で発生する事件に対する対応策などを考察しました。

 

《記事の要約》

アラブ首長国連邦(UAE)のドバイからイスラエル・テルアビブへ向かっていた格安航空会社フライドバイの旅客機で、2026年9月30日、副操縦士が機長を刺し、機体を墜落させようとしたとされる事件が発生した。

機体はサウジアラビア北西部のタブークに緊急着陸し、乗客は全員無事だった。

 

旅客機は飛行中、ヨルダン付近で突然進路を変更。

高度約1万メートル付近から短時間で数千メートル急降下し、緊急事態を示す信号を発信した。

負傷した機長が操縦室のドアを開け、乗客や乗り合わせていたパイロットらが副操縦士を取り押さえた。

その後、予備のパイロットらが機体を立て直し、タブーク空港へ着陸させた。

 

拘束された副操縦士はオマーン国籍。

サウジ当局からUAE側へ移送され、事件の動機や背後関係について捜査が続いている。

 

さらに米紙ウォール・ストリート・ジャーナルなどは、副操縦士が以前勤務していたオマーンの航空会社で、過激な思想への懸念から2024年に乗務を禁じられていたと報じた。

その後、UAEに移りフライドバイに採用されたという。

 

ただ、オマーン側の情報がUAEやフライドバイに共有されていたかや、採用時にどのような身元・適格性確認が行われたかは明らかになっていない。

 

イスラエルは今回の事件を受け、同国を発着する航空便のパイロットに対する身元確認を強化する方針を表明。

航空安全を巡り、国境を越えたパイロット情報の共有や採用後の継続的な適格性確認の在り方が新たな課題として浮上している。

(要約、ここまで)

 

《筆者の考察》

航空安全は長年、機体故障、操縦ミス、ハイジャックなど「外部からの脅威」を想定して進化してきた。

しかし今回の事件が突きつけたのは、操縦権限を持つパイロット自身が脅威となった場合に、どう乗客の命を守るかという難題である。

 

第一の防護は「採用前」である。

報道では、副操縦士は過激思想への懸念からオマーンで乗務を禁じられた後、フライドバイに採用されたとされる。

事実であれば、前職情報が次の航空会社へ伝わらなかった理由の検証が不可欠だ。

 

参考になるのが米国のPilot Records Database(PRD)である。

航空会社などがパイロットの過去の記録を確認するための仕組みで、前職の情報を採用判断に利用できる。

国際線が国境を越えて運航される以上、重大な安全上の理由による乗務停止などについて、プライバシーや更生の権利にも配慮しながら、航空当局・航空会社間で確認できる仕組みを検討すべきだ。

 

第二は「採用後」である。

一度適格と判断したから安全とは限らない。

欧州では航空会社に対し、パイロットが乗務を始める前の心理的評価に加え、精神的な問題などを相談できる支援プログラムも求めている。

大切なのは「危険人物を探す」発想だけではなく、ストレスや心身の変化を早期に把握し、本人が安心して相談でき、必要なら一時的に乗務から離れられる仕組みである。

 

第三は「コックピット内」で異常が起きた場合の防護だ。

9・11以降、操縦室のドアは外部侵入を防ぐ方向で強化された。

しかし、内部の操縦士が脅威となれば、その強固な扉が救援を難しくする可能性もある。

2015年のジャーマンウイングス事故後には、操縦室に常時2人を確保する考え方などが検討された。

今回を受け、操縦室への緊急アクセス、客室乗務員との連絡、操縦士の制圧後に別の有資格者が操縦を引き継ぐ手順などを改めて検証する必要がある。

 

ただし「乗客が操縦室へ突入する」ことを標準的な対策にしてはならない。

今回の救出は極めて特殊な状況であり、一般の乗客が独自に判断して操縦室へ向かえば、かえって安全を損なう恐れがある。

対応の主体は、訓練された乗員であるべきだ。

 

ISO思考で考えれば、再発防止策を「採用時の身元調査強化」一つに絞るのも危険である。

 

採用前の確認→継続的な適格性確認→同僚による気付き→相談・支援→操縦室内の相互監視→異常発生時の制圧・操縦引継ぎ→地上からの支援。

 

一つの防護が破られても次の防護で事故を止める「多重防護」が必要だ。

航空安全とは、危険な人間が絶対に現れないことを前提とする仕組みではない。

人間が予想外の行動を取っても、最後まで墜落させない仕組みをつくることなのである。
 

 

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