2026年8月21日付の共同通信社が、
『馬渕隆一さん死去 マブチモーター創業者』
と題した見出し記事を報じていました。
個人的には、30年近く前に、仕事でマブチモーターに関わり、当時、社長をされていた馬渕隆一氏のことは、間接的に、幹部の方から聞いていました。
生産拠点の海外展開を早い時期に推し進め、マネジメントシステムへの取り組みが積極的な企業というイメージが強いです。
以下に、この記事を含め関連記事を編集し、また、マブチモーターが日本経済に果たした役割などについて、考察しました。
《記事の編集》
小型直流モーターの世界的大手、マブチモーターの創業者で、元社長、名誉会長の馬渕隆一(まぶち・たかいち)さんが8月7日、死去した。
93歳だった。
馬渕さんは、香川県出身。
葬儀は近親者のみで執り行われ、後日、お別れの会を開く予定。
馬渕さんは兄の健一さんとともに、1954年にマブチモーターの前身となる東京科学工業を設立。
小型モーターの本格的な生産・販売に乗り出した。その後、玩具・模型向けから家電、自動車電装機器などへ用途を拡大し、同社を世界有数の小型モーターメーカーへ育てた。
1964年には香港に生産拠点を設け、その後、台湾、中国、ベトナムなどへ生産拠点を拡大。
1990年には日本国内での小型モーター量産を終了し、100%海外生産へ移行した。
また、製品や生産工程の「標準化」を推進し、高品質と低コスト、安定供給を両立する独自の事業モデルを築いた。
馬渕さんは1985年に社長、2003年に会長に就任し、2013年から名誉会長を務めた。
現在、マブチモーターの製品は自動車電装機器を中心に幅広く使われている。
2025年の売上高2004億円のうち、自動車電装機器が77.1%を占め、同社調べではミラー用モーターで世界シェア80%以上、ドアロック用で70%以上を占める。
模型用モーターで子どもたちに「動く楽しさ」を届けた企業は、今では世界の自動車や暮らしを陰で支える存在となった。
馬渕さんは、戦後日本のものづくりを世界産業へと押し上げた経営者の一人だった。
(記事の編集ここまで)
《筆者の考察》
<「小さなモーター」で世界を動かしたマブチモーター>
マブチモーターの功績を単に「小型モーターで世界シェアを獲得した企業」と捉えるだけでは、その本質を見誤る。
同社が日本経済や取引先に与えた最大の影響は、標準化、海外生産、品質マネジメントを組み合わせ、「高品質な部品を安く、大量に、安定して世界へ供給する」というビジネスモデルを早くから構築したことにある。
象徴的なのが「標準化」である。かつてモーターは顧客ごとに仕様を変えることが一般的だったが、マブチモーターは1969年の供給不足を契機に製品標準化を推進した。
共通化すれば大量生産や在庫が可能となり、生産計画も安定する。
さらに量産によるコスト低減が需要を拡大し、それが再び量産効果を生む好循環を作った。
この発想は、取引先にとっても部品コスト低減、品質安定、安定調達という大きなメリットをもたらした。
海外展開も早かった。
1964年の香港を皮切りに台湾、中国、ベトナムへ生産を広げ、1990年には国内量産を終了した。現在は製品の100%を海外工場で生産している。
単なる「安い労働力を求めた海外移転」ではなく、生産技術や設備まで標準化し、進出国への技術移転と雇用創出を進めながら、世界で同等品質を生み出す仕組みを構築した点が重要だ。
そして、このグローバル化を支えたのが品質マネジメントである。
同社は1995年に大連拠点がISO9000シリーズを取得し、1999年には取得予定の全拠点でISO9000シリーズと自動車産業向けQS9000シリーズの認証取得を完了した。
現在もISO 9001やIATF 16949を活用してグループの品質保証を進めている。
つまり、海外生産でコストを下げながら、マネジメントシステムによって品質の再現性を担保するという経営だった。
その成果は現在の自動車産業に端的に表れている。
2025年には売上高の77.1%が自動車電装機器向けで、ミラー用は世界シェア80%以上、ドアロック用は70%以上。顧客企業は981社に達する。
2025年にはトヨタ紡織から「品質優秀賞」と「原価改善優秀賞」を同時受賞しており、高品質、安定供給、コスト競争力が現在も取引先から評価されている。
子どものころ、プラモデルやラジコンで「マブチモーター」に触れた世代は多い。
しかし、その小さなモーターが育てたものは模型文化だけではない。
標準化によってコストを下げ、ISOや自動車産業規格によって品質を保証し、世界最適地で量産する。
これは、日本企業がグローバル化する一つの先行モデルでもあった。
馬渕隆一氏が残したものは、一企業の世界シェアだけではない。
「良いものを安く、世界中へ」という日本のものづくりを、個人の技能ではなく世界で再現できる「仕組み」に変えたことこそ、大きな産業的遺産ではないだろうか。
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